乱視読者の冒険 (読書の冒険シリーズ 3)
乱視読者の冒険 (読書の冒険シリーズ 3) / 感想・レビュー
Tonex
英米文学に関するエッセイ集。何かのパロディなのだろうが元ネタがわからないエッセイがいくつもあった。▼ナボコフの『ロリータ』の謎解きの部分が圧倒的に面白くて、目からウロコが300枚ほど落ちた。◇「目からウロコが300枚ほど落ちた」は278頁にある学生レポートの中の表現だが、「目からウロコが300枚」で検索するとけっこう使ってる人がいるので、何か元ネタがあるのかもしれない。
2016/02/18
Ecriture
後半の二章のみ。緻密なテクスト読解に舌を巻き、それに裏付けられた翻訳論に感服した。「ディテールについて語れない人を、わたしはナボコフ読者として信用しない」という一文には狂気に近いものを感じるが、若島正は巽孝之の言う「知的ストーカー」の体現者であり、優秀な研究者としての条件を備えていることの証左でもある。実に立派なストーカーだ。ただ……。「ナボコフ読者」だけが本読みなのではない。たとえば「デリーロ読者」は「細部を読み込まねば作品全体の理解が曖昧になる」とは言わない。
2011/11/04
三柴ゆよし
外文読み必読の面白エッセイ&評論集。軽妙洒脱なエッセイもさることながら、学芸誌向けに書かれた論考も知的興奮に満ちている。時間=謎の人物キルティ、ロリータとその母シャーロットの対照性を皮切りにしたナボコフ『ロリータ』論は目ウロコの連続。こんなにもあざやかな(とはいえこういう類のテクスト分析には水面下の水鳥のごとき執念が必要であることは言うまでもないが)手並みを見せつけられてしまうと、自分て本当に愚だな、と思う。学者、翻訳者としてだけでなく、読書家、教育家としての若島正にも全面的な信頼を置きたくなる本である。
2011/06/15
Hotspur
著者は英文学者、就中高名なナボコフ研究者、翻訳者、そして詰め将棋作家で将棋観戦記も書き、さらにチェス・プロブレムの作家。その評論集で面白くない訳がない、とは思ったが、知らない作家も多々扱われているものの、その内容は正しく期待通り。なんと言っても、著者の文学体験の圧倒的豊かさが直接的に伝わってくる。「一冊の小説を読み終わっても、まだ『もっと、もっと多くの』小説がわたしたちとの出会いを待っている」。こんなことを書ける文学研究者が他にいるだろうか。それにしても、大津栄一郎氏のナボコフ誤訳に対する指摘は辛辣。
2022/04/10
紅独歩
評論がこんなに面白くていいのだろうか。いきなり「存在しない本」の書評から入るという、悪ふざけスレスレの知的なゲーム。「新冒険」では収録順が変わっているらしいが、導入部においてこれほど刺激的なものはないだろう。なぜなら、不勉強であればあるほど、今読んでいるのが「作者の悪戯」なのか「真っ当な評論」なのか、混乱してくるからだ。挑発的で、しかも原文を知らない人間ですら理解できるほど判りやすい。唯一の問題点は、ジョイスやナボコフを読まずして、その面白さを理解した「つもり」になってしまう事だ。
2009/07/01
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