能楽ものがたり 稚児桜
能楽ものがたり 稚児桜 / 感想・レビュー
starbro
澤田 瞳子は、新作中心に読んでいる作家です。能の曲目のストーリー(私は、薪能を一回観ただけの超素人のため、ほとんど解りません)からインスパイアされた8編の時代小説連作短編集でした。オススメは、『やま巡り─山姥』&表題作『稚児桜─花月』&『秋の扇─班女』の3本です♪
2020/01/16
修一朗
梵唄でも動植綵絵でも澤田さんの本を読むときにはテーマとなる芸能を映像で鑑賞しながら読むんです。今回も元ネタの能楽を鑑賞しながらです。相変わらずどの能楽も同じに聞こえてしまうけども。お話の一つ一つは能のストーリーそのものではないんですが,それでも謡の中に豊かな物語が含まれていることが実感できて堪能しました。でもね,出版社は淡交社だし,これ,能楽に親しみをもってもらうために創作した企画本ですよね。なぜこれをわざわざ直木賞候補にしたのかが不思議。澤田さん,他にもがっつり人と歴史を描きこんだ作品が多々あるのに。。
2020/06/28
遥かなる想い
能の名曲から 生まれた八篇の物語である。 ベースとなる能を知らないのが 残念だが、 底に流れる 人間の情念のようなものが 全編に漂う。遊女を扱った作品が多い印象だが、幸少ない人生が ひどく哀しい…そんな印象の短編集だった。
2021/05/31
のぶ
澤田さんの新刊は、能の曲目のストーリーを下敷きにした8編の時代小説集。残念なことに自分は能楽についての知識が全くない。少しでも知っていればより楽しめるのだろうが、それでもどれもよく纏まったものだと思った。30ページ程度のそれぞれの話の中に、人間の怖さ、人情。人の強さや弱さが盛り込まれていて、人生の縮図が詰まっていた気がした。澤田さんの文章は静謐で何とも言えない余韻が残って、とても心地良いものだった。繰り返すが、能楽を知らない事がもどかしい。知った上で読めたらまた違った印象になったかもしれなかった。
2020/01/23
パトラッシュ
三島由紀夫の『近代能楽集』を読んで、能を戯曲に仕立てずとも小説化したら面白いのでは思った。その考えが実現された作品集だが、三島と同様それぞれの原曲の趣きとは相当異なるドラマが展開する。弱い者が虐げられて当然の古代から中世を舞台に描かれるのは、弱者を踏み台にのし上がる者や踏み台にされた側の復讐劇だ。鋭い切っ先で欲望と憎悪にまみれた人の心を彫琢しており、特に表題作「稚児桜」は花月の誇り高さと優しさが見事に表現されている。直木賞に一歩及ばなかったのは残念だが、短編小説としての高い完成度は今年の文学的収穫だろう。
2020/07/16
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