春の消息
春の消息 / 感想・レビュー
NAO
東日本大震災でたくさんの人々が亡くなり、死者は、今なお、生きている人々と密接につながっている。この本は、東日本大震災関連の講演の依頼を受けた柳美里と、佐藤弘夫との、死者と生者が共存する場所である東北の霊場巡りの旅だ。かつては、東北に限らず日本の各地に生と死の境界があり、人は、そこを通して死の世界を垣間見た。死は遠いものではなく、死者は生者に寄り添っていた。そういうことが、あまり感じられなくなってきている現代に起きた大震災は、生者とつながり方を問い直しているかのようだ。二人の対談も興味深かった。
2019/04/07
ネギっ子gen
【人生のストーリーは、死後の世界と死者たちを組み込むことによって完結し、その時初めてわたしたちは深い心の安らぎを得る】作家と学者が、大災害に見舞われた東北各地の墓地や霊場や有形・無形文化遺産などを探訪し、豊富なカラー写真とともに紹介した書。2017年刊。柳は、<人との出逢いは、不思議です。特に、逢おうとして逢ったのではなく、思いがけずに遇った場合は、その意味を考えます。繋がった縁の糸の片隅を掴んで、なぜ遇ったのだろう、とその意味を問うのです。その意味は、その人との関係の中で徐々に明らかになります>と――⇒
2024/08/30
koji
東日本大震災から10年、あの日の記憶は全く消えることはありません。しかし当時の映像を繰り返し流し被災者を悼む、おきまりの番組の数々に、少し違和感を感じていました。本書は柳美里さんと東北大大学院の佐藤教授の東北霊場巡り紀行。2017年刊行で当然ながら震災が通底にありますが、寧ろ東北の地が「生死の境界を超えた交流の場」を有する霊場の地であり、「供養とは亡くなった人と楽しむこと」という(近代以後忘れ去られた)死生観をもたらしてくれることを深く洞察していきます。ここに至り漸く東北の人々の思いと繋がれた気がしました
2021/03/15
海燕
生と死の交わる場所、生者と死者との交歓の地を訪ねて東北地方の寺社仏閣や霊場を巡る旅の記録。「震災の記憶を訪ねる感傷的な旅」かと思うとそんな軽いものではない。これまで、人々が「死」「死者」にどう向き合ってきたのかが垣間見え、写真も豊富で、民俗学の立派なフィールドワークだ。古くは、死者はこの世界の延長の比較的近い場所にいて、生者と容易に交わる環境にあったが、近代化は死者をこの世から排除するプロセスだという佐藤氏の見解は興味深い。サイン本で、見返しに柳氏の「春は生者にも死者にも息吹を与える」の力強い文字。
2022/11/05
kyoko
死者を巡る旅。写真も多く、興味深く最後まで読んだ。
2019/01/19
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