リリス (ちくま文庫 ま 5-1)
リリス (ちくま文庫 ま 5-1) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
まさに幻想文学、といった趣のファンタジー。死の集合体である巨大な図書室からの旅路は、「瞑想的な」という説明通りで、たとえば私なら法事でお経を聞いているときに目眩く勢いで浮かんでくる思念、そういうのに近い。翻って現代一般のファンタジーについて考えると、現実世界に思いを巡らせながら生み出されたもののように思えてくる。以前読んだ著者作品『金の鍵』も幻想的な世界観だったが、少年と少女が出会って旅をしていること、「金の鍵」を手にしているということ、それらが心の拠り所を思わせて、家族を連想したのかもしれない。
2022/04/28
NAO
屋根裏部屋から異世界へ。そこで助けた死にかけていた美しい女性は、アダムの最初の妻リリス。リリスは、ときには雌豹に、ときには絶世の美女に、ときには何の罪もなさそうな老婆に姿を変える。ただひとつの目的のために。その目的とは? 宗教色の濃い幻想的な話は、ジョージ・マクドナルドの晩年の力作。マクドナルドは、ルイス・キャロルやラファエロ前波主義の芸術家たちに大きな影響をあたえ、英国ファンタジーの祖ともいわれている。
2020/10/31
藤月はな(灯れ松明の火)
ルイス・キャロルなどの後世のファンタジー作家に大きな影響を与えた元祖ファンタジー。もう、導入部の時点から胸が躍ります。だって屋根裏部屋の扉から不思議な世界へ行くのですもの!!そして「自分を証明するのは何か」などというような『不思議の国のアリス』に共通する、哲学的問いも投げかけられているので知的好奇心が疼きます。主人公を誘う役割を果たす鴉の賢さにうっとりしつつもキリスト教における死生観が美しい幻想世界の中で織り成される様に陶然としてしまいます。ラストはなぜか折口信夫氏の『死者の書』を連想してしまいました。
2014/10/20
zirou1984
19世紀を生きたこの作家がいなければ不思議の国のアリスも指輪物語も、ナルニア国物語も存在しなかった。アダムの初婚相手の名を冠する本作は一匹の鴉に導かれて開いた扉の向こうに広がる、鮮やかなイメージの迸る夢の世界であった。旧約聖書のモチーフを核としつつ、それを万華鏡の様に乱反射させて広げた世界観はラブクラフトが取り組んだ「個人による神話の再構築」を先取りし、夢は私の生命以上のものであるという考えはユングの共時性やカスタネダのドラッグカルチャーにも結び付く。想像力の源泉とも言うべき、果てなき広がりを持った一冊。
2013/12/31
白のヒメ
私の大好きなルイスキャロルに多大なる影響を与えたという、イギリスのファンタジーの太祖の作品だとのことで読んでみた。「リリス」というのは、イブの前のアダムの前妻で魔女になったという存在の名前。その魔女が君臨する異次元の世界が、主人公の家の図書室のドアと繋がっているという設定から始まる。内容は、非常に宗教色が強く、様々なキャラクターや荒唐無稽の光景が現れる圧倒されるような絢爛豪華なファンタジーの世界であれども、「肉体は死んでも、魂の命は永遠である」というような、死生観にまつわるエピソードが主体だった。
2014/09/15
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