新釈古事記 (ちくま文庫 い 24-2)
新釈古事記 (ちくま文庫 い 24-2) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
これは非常にお勧め。自由な精神を持つ作家による古事記の現代語訳。繊細で雄渾、おおらかで伸びやかな訳文は、日本語の美の極みのような気がした。それにしても神話の神々のおおらかなこと。気に入ったらすぐに契ってしまう。神々に現代の人間の道徳をあてはめるのが間違いなのだろう。血なまぐさい場面もあるのが、その点は旧約聖書と似ていると思った。一番気に入ったのは、ヤマトタケルが死ぬ場面。白鳥になって飛び立つ英雄の姿が、格調高く美しい日本語で表現されている。
2017/08/26
夜間飛行
夫が妻を黄泉に訪ねる話は、生死の起源だけでなく、知る事により断絶してしまう人の宿命を説いているかのように思えた。しかし断絶には神々を協力させるという面もあって、世のマツリゴトは岩戸隠れの闇から始まったともいえる。原初の引き裂かれた関係を修復する事業は、大国主や山幸彦から人間へと引き継がれるが、もちろんマツリゴトが常に成功するとは限らず、仁徳の諡を持つオオサザキにしてもハヤブサワケ・メドリの恋人たちを死に追いやってしまう。故にこそ、嫉妬するイワノヒメのように、原初的なパワーを回復させる存在も必要なのだろう。
2015/02/03
34
冒頭を引く。《もののかたちが神と現じたはじめは、蘆の角であった。国はまだかたまらず、あぶらのようにどろどろ、くらげのただように似たころ、つのぐむ蘆はあざやかな錐を突き出して、その萌えあがる力をもって空間を切った。ときは春、うまれ出た角のさきがそらざまに、ここぞと世界の中心をさす。これよりもはやく、すでに中心という思想がおこって…ものがうまれるという観念も…》。見てのとおり、和漢洋・今昔・雅俗すべてないまぜの文体。日本最古と称される神々の物語、石川淳の文体の本質をさらけ出すに適した舞台だった。
2019/01/03
sedentary
神様たちの恋のうた。流れていく血も、結ばれる縁も、あまりにもあっけなくて何度気が抜けたことだろう。興亡を追いかけながら、とはいえこれも大和政権の神を利用した征服史に過ぎず・・・のはずであるのに、どこまでがほんとうかどこまでが虚なのか、そんなことはどうでもよくなってしまう。書かれていることをそのまま全部、愚直なくらいに受け止めながら読んでた。図書館から借りたためによれよれですごく焼けていて、しかもこんな表紙、電車で開くときはためらわれたこともあったけれど、それがかえって頼もしくてよい思い出でございました。
2015/02/01
清少納言
面白くて興奮。寝る間を惜しんで読み耽った。石川淳の新釈が読みやすかったのは、注釈や解説を、なるべく短く、叙述の中に織り込んでいくという手法の賜物。部分的に、日本書紀の記事から取って叙述をおぎなったところもあるという。どこから、どうして生まれてきたのかが、日本最古の書物に全て書いてあったとは。これを読んで、日本が更に好きになった。世界に誇る我が国独自の宇宙観、死生観、自然観、歴史観ここにあり。日本人であるなら、絶対に読むべし。これは面白い。
2014/06/24
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