神聖喜劇 第3巻 (ちくま文庫 お 16-3)
神聖喜劇 第3巻 (ちくま文庫 お 16-3) / 感想・レビュー
猫丸
蟻の巣穴のように、個人の思考世界は無数に枝分かれしつつ伸びていく。地表の光は日常から発する。脳中の暗部へ沈降すること久しければ、やがて現実感を失い「何か監獄の類」に囚われた感に至る。本巻に登場する女流漢詩人、江馬細香の嘆きは「一タビ誤ッテ家ニ舅姑ヲ奉ゼズ / 徒ニ文墨ニ耽ッテ江湖ニ混ル」。嫁に入ることもなく何となく文藝に夢中となり活動を始めてしまった。多少は世間に名を知られるようになったが、これを「却ッテ慚ヅ」というのだ。既に引き返すことはかなわぬ。
2021/05/06
小倉あずき
1巻、2巻に比べてとても読みやすいのは短歌や俳句が数多く引用されているからだろう。解説の吉本隆明はこの点を「特異な教養小説」と指摘する。この巻を読んで思い出したのは米原万里の『オリガ・モリソヴナの反語法』。強制収容所に収監された主人公たちが日中過酷な肉体労働を課されたにも拘わらず(いや、だからこそ)、夜な夜な自分たちが暗記していた詩や小説の一部を読み上げて生きる望みを繋いだという一節。人間は考えている限り命を繋ぐことができるのだ。それにしても私は人生が終わるまでにこんなに情報詰め込めるかな。無理だな。
2019/06/29
勝浩1958
第1巻、第2巻と打って変わって大前田軍曹は少しなりを潜め、東堂二等兵とその仲間たちが内務班内のある事件に巻き込まれることにより、いろんな人物像が描かれていく。謎に満ちたまま第4巻に進む。
2013/04/18
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