コミュニケーション不全症候群 (ちくま文庫 な 11-4)
コミュニケーション不全症候群 (ちくま文庫 な 11-4) / 感想・レビュー
ころこ
文章の言文一致らしき読み易さに目が行きます。大塚英志が後年いっていた、あたかもLINEの吹き出しのような言と文の接近が先取りされているようです。(解説はその大塚です)しかし、「あとがき」にあるように、著者はこの文体を持続することの苦しい思いを告白しています。精力を使って書き切った楽屋裏との二層構造をあえて示した上で「苦しんだことのない人、自分が苦しんでいると認めようとしない人にこの本は何も必要ないでしょう。」と、過剰適応の不適応のような、この読み易さの裏にある断念の思いにこそ本書の主題は隠されています。
2020/08/12
しゅん
再読したが、まじで素晴らしい分析と文章。おタク、ダイエット、JUNE小説を主な題材に91年当時の人々の精神構造を考察していくわけだけど、人口の過密した社会で、他人を自分と同じ人と思えない対人障害に大多数が陥っているという認識がまず説得的。その例として、幻想の「家」の構築(おタク)、個人として認められるための過剰適応(ダイエット)、選別を受ける女性の役割の拒否(JUNE)というそれぞれの特徴をあぶりだし、すべての現象の問題が一貫していることを論証する。分析が、完全に現代にも当てはまってて怖いくらいである。
2020/07/14
Yuji
20年以上前の本だが、現在の状況をおそろしいほど指摘している!引きこもり、june、拒食症を通底する「選別」の問題点を指摘。驚きの連続でした。自分には、男からの選別への逃避=拒食症との分析が思いも付かず、不明を恥じ入るばかり。この時点でここまで指摘されていた問題が、今もそっくり手付かずで残っているようで、怖い。
2016/07/25
袖崎いたる
ぼくも好きなのだが、岸田秀さんを著者も好きだそうで、いちいちの分析的記述がどこか岸田流派の流れを汲んでいるように読めて面白い。著者はオタクやダイエットなどへの若者たち(新人類と名指された世代)の志向を時代=社会への適応形態であると判断する。オタクが精神的ホームレスであるとか、関係性の生命に対する優越性とかは実に精神分析学的。この本が白眉たりえるとすれば、病的な時代を先に捉え置くのでなく、病的な自分を議論に先立って念頭に把持している点にあるだろう。 コミュニケーションの狂理を考えるのには良い。
2015/05/02
Tanaka9999
1995年発行、筑摩書房のちくま文庫。現象はするどく看破している、しかし原因になると「選別される」側の適応というが、現在のネットの発達による「選別される」側にも「選別する」側にもなり、また選別圧力も一部では弱まった現在でも現象は変わっていないのはどう評価するのか。どうも原因の解説する時に自分の経験などに寄せて考えすぎているのではないのか。結局この人は全てを自分に寄せていたのではないか。活動の後半で一部のシリーズものを除き、根強いファインがいるが一般受けしない作者になってしまったのは、それが原因ではないか。
2024/04/19
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