妊娠小説 (ちくま文庫 さ 13-1)
妊娠小説 (ちくま文庫 さ 13-1) / 感想・レビュー
うりぼう
日本の小説だけですが、縦横無尽に整理・分析する様が、正剛先生の編集術を見るようでした。「妊娠」は、個人とっては大問題ですが、誰もが関われ、適度なリアル感のある題材。妊娠小説が「舞姫」を父に「新生」を母に持つ系譜だそうだが、無学な私はいずれも未読。折角の口舌が話半分になってしまう。男の子の雑誌の功績は「考えるズボラな男より考えないマメな男」に軍配を上げたこと。「桃尻娘」は妊娠を中絶を誇れるものと扱う。竹内久美子の世界であり、リチャード・ドーキンスが喜ぶ。「受胎告知」が小説の山場で、男の反応は、思考停止する。
2010/05/12
gtn
所詮男には女の立場や苦しみなど分からないという、著者のせせら笑いが聞こえてきそう。鴎外の「舞姫」、藤村の「新生」、石原慎太郎の「太陽の季節」、三島由紀夫の「美徳のよろめき」等、"いわゆる"名作を俎上に載せながら、本質を捉えきれない男性の愚かさを暴いてみせる。そのいずれもが核心をついており小気味いい。
2022/09/16
阿部義彦
私が一番信頼できる書評家と思っている、斎藤美奈子さんのデビュー作です。成程初手からアナーキーでしたね。望まぬ妊娠を搭載した小説を妊娠小説とカテゴライズして、妊娠小説の父を森鷗外の『舞姫』同じく母を島崎藤村の『新生』として、歴史軸と物語軸を縦横無尽に駆使して、その背景(優生保護法、ウーマンリブ等)から解き明かします。『太陽の季節』『青春の蹉跌』『風の歌を聴け』『テニスボーイの憂鬱』有るわあるわ!著者曰く「実はある文芸編集者に叱られました『文学はこんな風に読むものじゃ無い』と」いやいや、だからこそ新しく楽しい
2023/04/15
しゅん
斎藤美奈子デビュー作。「妊娠」の観点から解き直す(これまでも多くの人が書いてきた)日本近現代文学史。全ての小説を突き放しながら、「受胎告知」や「堕胎」や「避妊」がどのような形式で、どのような構造で描かれるかを描いてゆく。中村光夫へのコメントなどに恣意的すぎる(嫌なAmazonレビューのような)読みもあるし、出オチで途中飽きてしまう(つまり構成が機能していない)ところもあるが、フェミニズム標榜的な糾弾でなく、現実的な問題と文化の持続性を分けて結論づける結部への流れは面白かった。
2021/12/25
k5
ニシノユキヒコの蔵書として登場していたのをきっかけに、電子書籍で読了。第一部、「妊娠小説のあゆみ」は圧巻のすばらしさで、小説の内容と形式を縦横無尽に語る、得がたいタイプの評論です。とくに『舞姫』と『風の歌を聴け』の分析には膝を打ちます。ただ、第二部、第三部は同じことの繰り返しですし、退屈きわまりない。数式とか出てくるんだけど、「切り上げ」の時点で間違ってるし。明確に、第一部だけ読めば良い本です。
2019/05/19
感想・レビューをもっと見る