岡本綺堂集 (ちくま文庫 か 35-1)
岡本綺堂集 (ちくま文庫 か 35-1) / 感想・レビュー
三柴ゆよし
ずいぶんひさしぶりに読み返した。実話怪談の観点から見て随一の佳品というべき「寺町の竹藪」が収録されていないのは意外だったが、まずもって本書を綺堂怪談入門とするにしくはないだろう。前近代的な怪談のフォーマットを用いてはいるが、どちらかというと中国の志怪小説を踏襲したのだろう不条理性が病みつきになる。たしか高橋葉介が漫画化していた「白髪鬼」はオチまで含めて完璧な怪奇小説だし、「蟹」や「鰻に呪われた男」「西瓜」などは一読ポカーンとさせられるわけのわからなさ。いま読んでもおそろしくモダンな作品集だと思う。
2021/04/21
藤月はな(灯れ松明の火)
仮に暗闇に蝋燭を灯して百物語をしていると考えるとします。その中で泉鏡花氏の怪談は極彩色の美で表現される次第に迫りくる怪異ならば岡本綺堂氏は白黒映画のように目に浮かび上がる風景にいきなり、怪異が現れ、(ただし、昨今のホラー映画のように心臓に悪い現れ方では断じてない)冷水を突然かけられたようにぞっとする印象です。科学の普及により怪談などの地位が貶められた時代のためか「神経」などで片付けようとしても結局は謎は残って不思議だというのがなんとも皮肉めいています。夏に読めてよかったです。
2011/08/29
かわうそ
怪奇探偵小説と銘打ってはいるものの怪談色の濃厚な作品集で、最後まで明確な因果関係が明らかにならない薄気味悪さが堪能できる。あからさまな恐怖描写がないことがかえって想像力を喚起するのかなかなか怖かった。
2013/12/13
しろ
☆5 岡本綺堂の怪談の怖さは妙にリアルだと思う。怪談なのに単語自体は比較的あっさりしていて、最後にドカーン、というプロットでもないのに文章全体からじんわりと滲みてくるような恐怖がある。それもすべて実は、怖いのは怪異ではなくて人間そのものであるというところに起因するのではないか。読んでいるとそう感じた。この中では『一本足の女』と『西瓜』がよかった。
2010/11/07
tosca
日下三蔵篇、第一部は青蛙堂鬼談が丸ごと収められており、12人それぞれが怪異な話を語る12の短編。第二部はいくつかの短編集からの13篇。作品の良さは勿論、ボリュームもあってお得感がある。江戸時代や明治時代の話が多いので、江戸情緒や古き良き日本の美しい景色が目の前に広がるよう。古い日本語が本当に美しい。おどろおどろしい怖さはないが、読んでいたら、どこからかお線香の香りが漂ってくるような妖しさ、靄の中に何かが見えそうな不思議な感覚。どのストーリーも良かったが、「木曾の旅人」「白髪鬼」「西瓜」が印象深かった。
2019/07/23
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