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沈黙博物館 (ちくま文庫)

沈黙博物館 (ちくま文庫)

沈黙博物館 (ちくま文庫)

作家
小川洋子
出版社
筑摩書房
発売日
2004-06-10
ISBN
9784480039637
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沈黙博物館 (ちくま文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

小川洋子に特有の、しかしそれにしても、これまでよりも一層に静かな静かな物語。なにしろ、そこでは生きている者たちのことごとくが「形見」を通じて死者たちに奉仕する世界なのだから。「耳縮小手術専用メス」、「沈黙の伝道師」、「泣き祭り」、「シロイワバイソン」など、異空間の物語世界を構成する要素も巧みに配されている。「沈黙の伝道師」は、萩尾望都の『スターレッド』の「夢見たちの杖」を連想させたりもする。そして、物語の終盤は、ことさらに怖く、またやりきれないほどの孤独と絶望の、凍りつくような世界が用意されている。

2013/04/27

ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

その駅に降りたったのは彼だけだった。完璧な町はのどかで音もなく訪れる死は穏やかな春の陽ざし。なのになぜだろうあの町を思いだすとき、浮かぶのは世界を塗りつぶす静かな雪の気配だけだ。 少女はガラスの棺にシロイワバイソンは剥製に切り取られた乳首はホルマリンに漬けて飾られる。不穏な影が森を跋扈してもこの静けさが脅かされることは決してないのだと。それは安心かそれとも畏れなのか。生まれた記憶すらかじかむ指の先で結晶とともに淡く消えゆく。誰からも忘れられたこの地で、沈黙がまもる博物館がひそやかに訪れるものを待っている。

2021/02/11

コットン

小川洋子さんにサインを頂いた本。小さな村の特別な沈黙博物館に係わることになる僕と依頼人や博物館のスタッフ達、沈黙の伝道師などが出てくるの話。具体的に話が進むのにつかみ所がない宙吊り状態に陥る所が面白く、興味深い。沈黙の伝道師の見習い少年が舌を氷に押し当てる所を僕が見て「いつしか僕は顕微鏡をのぞいている錯覚に陥る。少年の舌を、プレパラートに閉じこめられた細胞のように眺めている。」とか……。

2017/11/16

エドワード

形見を英語で引くとmemento、memorialと出る。記念品と同じ言葉だ。しかし記念品と形見は違う。死者の魂の宿るもの、という響きがない。形見は日本語のみの表現だ。この作品はある老婆が村人の形見の博物館を建てる物語だ。主人公は博物館の設計技師。気難しい老婆に雇われる。老婆の養女である少女、庭師と家政婦が助手だ。剪定バサミ、糸巻き車、金歯、犬のミイラ。珍奇な物達が現れる所は「薬指の標本」と似た雰囲気。本作品の方が老婆の動機がよく理解できる。人々の優しい会話。喪われたものへの敬意。静かに物語は終わる。

2012/08/14

あんこ

読書メーター200冊目に必ず読もうと思っていた小川さんの小説。主人公が雪の世界に紛れ込んだように、ずっと深く降り積もる雪の中にいるような静かに続く話。沈黙の伝道師に秘密を打ち明ける場面は、『六角形の小部屋』を思い出しました。ひっそりと佇む博物館、そこに集められた形見。囁かなものの声を聴く姿を描いているところが小川さんらしい。博物館もそうですが、どこか幻想的な雰囲気を伴わせるこの町自体が、音のある現実世界から切り離されているような印象を受けました。

2014/01/25

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