ファンタジーの冒険 (ちくま新書 174)
ファンタジーの冒険 (ちくま新書 174) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
最近ファンタジー熱が上がってきたところで、お気に入りの方が読まれていた本書が気になり読む。19世紀ジョージ・マクドナルドあたりから90年代日本までのファンタジーの系譜と各時代の考察。作品数が少ない前半こそファンタジー文学史の様相が強いが、多様な作品が潤沢になってくる後半になると、ファンタジー作品視点で歴史を見つめ直したかのようで、もはや本書自体が作品のようにさえ見えてくる。現実世界を映し出すファンタジー作品を並べ、その鏡面で再構築したような。著者の語り口は生き生きとしていて、知らない本ばかりなのに面白い。
2022/04/29
井月 奎(いづき けい)
すこし斜めからものを見る子供であった私は、ファンタジーは荒唐無稽な物語だと思っていて、魔法や異世界がでてくると、面白い物語であっても少し醒めてしまったのです。その私の目のうろこをぽろぽろと落としてくれたのが『天守物語』であり、『モモ』でした。大人になってからのことです。そうです。ファンタジーとは子供のものだけではないのです。いいファンタジーは見えないものを見せてくれて、神話や伝説が現代に、個人にどうかかわるのかを教えてくれる物語なのです。この本はそのことを作品をあげながら教えてくれます。いい船頭です。
2017/04/02
kasim
ファンタジーへの愛があふれる本。SFファンがジャンルの定義にうるさいのに対し、ファンタジーファンは幻想要素があれば「何でもかんでもファンタジーにしてしまう」というのは、なるほど。自由だ。この本は1998年の出版だが、今となっては「スリップストリーム」という言葉はやはりジャンル側からの呼びかけだなあと思う。越境は普通になり過ぎて、オースターやイシグロをいちいちスリップストリームとは言わないよね。ジャンル論は難しい。
2022/04/23
白義
ファンタジーとは、こことは異なる別世界の創造を通して、現実世界の問題を寓話のように逆照射する特徴がある。時代の変化とファンタジーの歴史を結び付け通史を辿り、その今日的な批評性を探る試み。ラヴクラフトやトールキンといった定番の流れを押さえつつ、RPGや隣接ジャンルのSFとの関わりにも目を配り、古めの入門書ながら読みごたえは十分。剣と魔法ジャンルの発達に、原型としてのアーサー王伝説が深く関わり、パロディや改変などを通して復活していくいう議論は今の日本だとより深く実感できる部分であろう
2015/04/15
misui
ファンタジーを時代のカウンターカルチャーと定義した上で一九世紀以降の流れを紹介する。ロマン主義に影響を受けたマクドナルド、ラヴクラフトを中心としたパルプコミュニティ、トールキンとルイスのインクリングスと、黄金期がきちんと押さえられておりわかりやすい。ただ時代を下るほどに細分化していき、大体70年代以降は拡散して混沌とした状況になる。出版が98年と少し古いので注意。
2013/03/14
感想・レビューをもっと見る