日本人の目玉 (ちくま学芸文庫)
日本人の目玉 (ちくま学芸文庫) / 感想・レビュー
harass
佐々木敦の批評お勧め本リストの一冊。この評論家の初期の隠れた名作だそうだ。日本人の考え方・目玉とは、を考察する批評史。放哉、虚子、九鬼、西田、三島、洲之内、青山、三島、安吾、川端、そして最後に小林秀雄に至る、日本の近代批評の道のりを論じていく。正直、難解なところもあるが、なかなか面白い。この大風呂敷っぷりや、題材というよりも、強引といっていい論理展開や煙に巻くようなレトリックにめまいや恍惚を感じる。批評というジャンルのお手本か。良書。
2018/05/24
踊る猫
エモいな、という印象を抱く。手つきとしてはクールなのだけれど、ところどころ「異物」「他者」の立場から日本文学そのものを斬ってしまおうという意気込みを感じるのだ。特に川端康成論が秀逸で、幅広く文献をフォローして川端の不気味さを論じるところが熱っぽく、これまで書かれたことのない(そしてこれからも書かれることのないであろう)一編として仕上がっているように思う。使い勝手が良い、とは言えないと思うのだけれど、それでも無視し得ないアクチュアリティはある。著者のクレヴァーな側面が窺い知られる(悪く言えば自由過ぎる)一冊
2019/08/02
ピンガペンギン
福田和也氏は柳美里さんと雑誌をやっていた。柳さんのエッセイ集の中の文章(それがこの本の末尾に収録されている)でこの本を知り、気になっていた本だった。洲之内徹、青山二郎を対照的に論じている章を夢中になって読んだ。ウィーン在住の画家「みよしさん」の絵を買ったことで、直接話す機会を得た福田氏はみよしさんの心が「壊れていた」と書いた。洲之内に見いだされた彼女の絵の「たんぽぽ」の描写が鬼気迫るという感じで(それを柳さんが褒めていたのだ)、ぜひどんな絵が見たいものだと思ったが、ネット上でも出てこず。
2023/09/02
うえ
九鬼隆一男爵の妻、波津子と岡倉天心の不倫。そして天心の妻。この三名ともに何かしらの精神疾患を持っていたことと、それを語る息子、九鬼周造。「西田の虚、九鬼の空」では、九鬼の「思出のすべてが美しい。明りにも美しい。蔭も美しい。誰れも悪いのではない。すべてが美しい」という言葉が引用されている。岡倉天心に対しては尊敬の念しかないと言う九鬼は、『いきの構造』という奇妙な、問いのない本を書いた。それに対して、西田は。。思い出はいつも美しい。
2019/09/28
しゅん
福田和也はなんとなく避けてきたのだけど、面白かった。全体的に人間の獣性、人の気持ちへの無関心とか戦争に生きる人間の欲情とかを肯定する流れがあり、一見すると女性蔑視的な主張ともとれるが(その一面も確かにある)、「目玉」を知らずに「目」を語るなという考えのもとでは避けて通れないのが「獣」道となる。しかしながら、「見る」ことのナルシシズムは「獣」を語るには相応しくないと思う。両親の情念に幼少期に触れた九鬼修三と、きわめて率直な思想として青年時代を生きた西田幾多郎の対比は、エピクロス派とストア派の対比とダブる。
2020/12/02
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