実存から実存者へ (ちくま学芸文庫 レ 4-2)
実存から実存者へ (ちくま学芸文庫 レ 4-2) / 感想・レビュー
しゅん
フランス語で〈ある〉を表す非人称の表現〈il y a〉をキータームに、存在者なき存在について思考する。「怠惰」や「疲労」など日常的な言葉が並ぶが、そこには第二次世界大戦中ドイツの捕虜収容所に囚われたユダヤ人レヴィナスの経験が根付いていた。主体性と名前を奪われ、「私」という人称なき、知の光なき完全な「夜」の時間が訪れるーーホロコーストの被害者が自らの体験を語れないのは、そこに「私」が存在していなかったからだ。徹底的に非人間的な体験から、存在そのものに内在する「悪」を抽象的に導く言葉の強靭さに震えた。
2017/08/24
塩崎ツトム
難しすぎて電車の中で読んでいる途中で何度も居眠りしてしまった。それはそれとして、「存在する」ということを無条件に善とする西洋的発展史観に突きつける「ノン」の意志は強烈。生きていることが苦しいのは完璧な存在から遠いからではなくて、存在ということ自体がどうしようもなく最悪なことだからであり、だから疲労から回復して、完璧な状態に近いはずの、朝の蒲団から抜け出す事がここまで億劫なのである。そして闇は「虚空」だから恐ろしいのではなく、「ある」の塊だからこそ恐ろしいのだ。(つづく)
2024/04/05
koji
「善の研究」に触発され、本棚に仕舞い込んでいた本書を手に取ったのが10日前。長く苦しい読書でした。脚注も解説も内田樹レヴィナス論も読みましたがストンと落ちません。何度も呻吟しているうち、虐待死や不条理な交通事故死をニュースで見て考えているうち腹落ちしました。レヴィナスは本書で人間の運命の真の問題を語っています。馴染み、習慣的な世界が、突然異様な理解不能な状況になる瞬間、これを「実在者、定位、実詞、志向、糧」等緻密に定義された言語で精密に分析し、そこから先どう生きるかを私達に突きつけています。嗚呼!恐るべし
2019/05/15
∃.狂茶党
語られてることは、わかりづらいのですが、読み進めることが難しい本ではない。 何故か、統一教会の合同結婚式と、芸能界のセクハラパワハラ並びに隠蔽体質が脳裏に浮かんでくる。 怠惰という強い力。 ”努力は疲労の上に崩れ落ちるのだ” 怠惰についての言葉もそうだが、レヴィナスの言葉は切れ味が鋭い。 ラップバトルでいうところのパンチライン。 恐怖についての文章は、関心領域でもあり、もうちょっと長めの文章を読みたい。これは喪失ではなく世界に触れることの恐怖を取り上げているのではないか。
2023/05/20
Bartleby
この本だけでレヴィナスの哲学の全体像を掴むことは難しいけども、彼の哲学が纏う雰囲気を感じ取るのには適している。前回読んだ時は不眠や怠惰、疲労などの概念にばかり目が行っていた。今回は、実用性から切り離されることでむき出しになる「物質性」に関する記述が印象に残る。「存在の物質性の発見は新たな質の発見ではなく、存在の不定形のうごめきの発見なのである」。
2015/03/04
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