「やさしさ」と日本人: 日本精神史入門 (ちくま学芸文庫 タ 45-1)
「やさしさ」と日本人: 日本精神史入門 (ちくま学芸文庫 タ 45-1) / 感想・レビュー
壱萬参仟縁
太宰治は文化の本質にやさしさを見てとっている(016頁)。文化能力・倫理能力としてのやさしにも、場なり共同体なりが所与として前提されていた(171頁)。距離ある相手の苦しみや悲しみをいかに思いやり、共感できるのかは、倫理学の基本問題。厄介な問題であり続ける(176頁~)。要するに、思いやり、つまり、他者への配慮。これは想像力なくしてできない。
2016/07/03
SOHSA
《譲受本》「やさしさ」という言葉とその意味・用法の変遷から日本人の持つ思想の読み解きを試みる著作。平安の昔から現代に至るまでの日本人の変化はその言葉の変化、意味の変化をなぞることで新たな風景が見えてくるようだった。それにしても「やさしさ」とはなんであるのか。その答えはやはりわからない。胸の中に渦巻くある種の感情がおそらくはその正体なのだろうけれど、それを他の言葉に置換することはできない。それこそが日本語源泉でありかつ日本人の思想の根源なのかもしれない。答えは見えない。
2020/11/05
弥勒
「やさしさ」とは、人間の根底にあるものであり、人間の尊さの証明でもある。その大事な構成要素として「恥」「敏感さ」「受苦」がある。そして、これらは「弱き者」にしか持ち得ぬ者なのである。太宰治はその意味で、やさしき人間だつたのだろう。私もなぜ太宰治の文学がかうも優しく思はれるのか不思議でならなかつたが、この本を読むでなんだかわかつた気がした。私も人にやさしくありたいと願う気持ちはある。しかし、意識してやさしくあることは「やさしさ」とは違ふのもわかつてゐる。本当に「やさしく」あることは難しいとつくづく思つた。
2016/02/21
ラウリスタ~
冒頭50ページほどの現代日本における「やさしさ」に対する問題意識は非常に身にしみる。どうせ分かり合えるとタカをくくって人の話を真面目に聞こうともせずニコニコしているのが「やさしさ」なら、そんなものは日本からすぐさまなくなってしまえばいい。さて、竹内は「やさしさ」という言葉が全く正反対の意味をも含む多数の用法(肯定・否定どちらも)で用いられていることを人気ソングの歌詞から分析し、その後『万葉集』からの「やさし」の系譜を現代まで下る。それでもなお、やさしさの可能性をあきらめない本。
2016/05/01
またの名
「優しいものはとても恐いから泣いてしまう 貴方は優しいから」とパラドックス的なやさしさを歌う鬼塚ちひろを含む現代Jポップの用法から古代の文献までを渉猟し、この語に倫理的な内実を籠められないか探求。言葉は基本的に空っぽの入れ物なのでそこに注がれる意味も使い手や時代によっていくらでも変わりうるけれど、傷を避けたり癒したり逆に招くことや羞恥や優美や幽玄や容易など幅広い意味を持たされてきたやさしさにヒントを求める。それだけ重要な言葉ならイデオロギー強化的にも十分作用しうるという点よりも肯定的な可能性を目指した本。
2017/02/07
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