美の死: ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫 く 6-1)
美の死: ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫 く 6-1) / 感想・レビュー
青蓮
1冊の本を読むことは、一人の女と寝ることに似ているーー外見だの評判だのは、むろん当てにならない。女は寝てみないとわからないーー久世光彦による、書評、作家論、解説を集めた1冊。読んだことのない作家さんが多数、取り上げられていて、本書を読むと読書の幅が広がりそう。そして久世さんが作品に向ける慈愛に満ちた優しい眼差しを感じます。
2017/12/27
更夜
久世光彦さんが亡くなったのは2006年。耽美の世界を私にそっぽを向きながら、目を合わせずにそっと教えてくれる人はいなくなりました。副題に「ぼくの感傷的読書」とあるように本についての本はたくさんあっても、こんなに感傷的で、うしろめたく、そして魅力にあふれた文章で「惚れた作家」「惚れた本」について静かに語り、決しておしつけたりしないその姿勢は私の永遠の憧れです。「論」や「研究」よりも、惚れた作家の小説を何度も読むがいい、と語る久世さんの文章はいつも微熱を持っています。本当に本が好きな人でした。大好きです。
2015/09/03
不在証明
Ⅰ―解説ではなく書評。一つの作品について、盛り上がりの場面も、オチも、惜し気なく盛り込まれ、少ないページ数で書かれている。限られた字数でこうもうまく纏め上げられるのか、と陶然とする。いくらか読んだ本がある。本当に読んだ本かと一瞬忘れかけるが、やはり読んだと記憶にある。ずれを感じたわけは、物語中のわかりやすい要点ばかりを拾ってはいないからだろう。言ってしまえば、物語の良い面ばかりが目に付く(これは貶しているわけではない)。未読の本も手に取りたくなる、こんな素敵な文章を書く人だとは知らなかった。
2016/09/11
tonpie
小林秀雄について。「鋭敏な彼の目からすれば、周りはお人好しばかりだった。熱気はあっても盲目的で、文学はそれらの人々にとって信仰ではあったが、その実むなしい幻でしかない。いずれ独走できることは、目に見えていた。(けれど、彼を)笑ったら、半世紀もの間、彼のあの目に、クモの糸のようにからめとられていた自分を笑うことになる」。三島由紀夫について。篠山紀信撮影の「三島由紀夫の家」を傍証に「少女小説に憧れ、それが規範だった人」と見る。人生の半分読書に浸っていた演出家が本を通じて語る、最晩年の感傷的告白。かなり苦い。
2020/05/28
ドント
久世光彦による書評・作家論・解説などをおさめた一冊。この人の文章はどうしてこうも美しくてしかも背徳的なのだろう。どんな本を取り上げてもどんな作家を取り上げてとどこか手つきが艶っぽく、裸の女を扱うような雰囲気がある。少し衒学的なところすらも女を口説く男のよう。「美の死」というタイトルがこの本のすべてであると思う。美が死ぬのではない。美とは極めて死に近い概念なのだ。この人が美とか死とか色恋を書くと見えない白い炎がゆらめく。
2013/08/12
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