誠実な詐欺師 (ちくま文庫 や 29-2)
誠実な詐欺師 (ちくま文庫 や 29-2) / 感想・レビュー
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
誠実さを求める結果、愛想が言えず人付き合いが苦手なカトリ。計算が得意で他者の狡猾さを見抜く鋭い目を持っています。裕福な故に鷹揚でお金を軽蔑していられる絵描きのアンナ。自然の本質を視る優れた画家ですが、たまたま描いたキャラクターが人気を呼びファンレターの返事に追われる毎日。気がつくと絵筆が持てなくなっていました。二人の女性が親和と確執を重ねお互いに影響されていきます。鷹揚さの仮面を剥がされていくアンナ。カトリの弟マッツ、カトリのシェパード(名前はない)が物語に奥行を与えます。痛みを伴う深く、苦い味わい。
2014/07/05
ケロリーヌ@ベルばら同盟
裕福で孤独な老嬢、身寄りのない姉弟。北の海辺、雪に閉ざされた冬。娘はある企みを胸に秘め、老嬢が暮らす「兎屋敷」を訪ねる。互いに欠ける物を補完し合う穏やかな共同生活が営まれるかと思われたが、事態は一転、心理サスペンスの様相を呈する。孤高の獣の魂を宿す二人は馴れ合う事を忌避し、安寧に背を向ける。まっとうであろうとするが故に、生き辛い。不器用な者たちが痛ましく、愛おしい。トーベ・ヤンソンが描く、抒情的で物寂しい表紙画が作品世界を象徴する。
2018/09/17
がいむ
ムーミンじゃないヤンソンさんの小説も気になり手にとった。興味惹かれるタイトルだけど、なかなか前半はすすみにくい(~_~;)本音を話さない、そういう表現を知らないかのような女性ふたり。ちょっと息苦しい心理戦?「あなたは遊びを知らない」「遊びのなんたるかを知らない、それがすべての元凶なのよ」名セリフはいろいろあり、独特な味があります。
2012/11/14
ソングライン
弟マッツの憧れるボートを買うために、ある計画を立てる姉カトリ。父母から受け継がれた兎屋敷で一人暮らす絵本作家アンナ。アンナの信頼を得、兎屋敷に同居することとなった3人。アンナの財産を増やしその利益からボートを買おうとするカトリ、人を疑わず自分の欲望に素直に暮らしてきたアンナが、カトリの計画により周囲の人々の悪意に気づき、憤りを感じ始めます。二人の相反する価値観がぶつかった後に訪れる結末は決して優しいものではありませんが、何のために生きるのかを考えさせるものです。
2021/01/30
TSUBASA
誰にも信頼を置かず、自分の力と数字のみを信じ、常に誠実であろうとするカトリ。彼女と弟のマッツは、絵本作家アンナの元へ転がり込む。アンナはそれなりの収入がある故にお金を軽蔑していた。ぞんざいに扱われた契約書の山を整理するカトリを前にアンナは苛立ちを募らせる。雪に閉ざされた北国らしい、薄ら寒く陰鬱な物語でした。人を疑ったことの無い人間と自分だけしか信じない人間が出会い、互いに理解できなかったが故に自らの信条すらも見失う。二人ともほんの少しでもわかり合えたら素晴らしい親友になれただろうに。
2015/03/16
感想・レビューをもっと見る