小説東京帝国大学 下 (ちくま文庫 ま 35-2)
小説東京帝国大学 下 (ちくま文庫 ま 35-2) / 感想・レビュー
てつ
これは果たして小説なのか、それとも清張の歴史観を見きわめるだけの小論なのか。上巻はそれなりに小説の体をなしていたようだか、下巻は登場人物に言に名を借りたドキュメンタリー風に見える。東京帝国大学の当時の現状をあからさまにするというより、自らの学問的な見解を小説に見立てて検討しているに過ぎない。もっと流れを整理して大学のあり方を描いて欲しかった。他にも清張にはこんなような作品があるようだが、看板を掲げるに際して気をつけて欲しかった、というのだけが感想です。
2019/02/11
あかつや
上巻で取り扱った2つの事件はそのままなんとなくお流れとなってしまったが、火種は燻ったまま次なる事件へと続いていく。下巻はもうフィクション要素がすっかり薄くなってしまったな。上巻での主人公格であった工藤くんもパッタリと音沙汰なくなって、出来事の資料の引用と解説に終始してしまった。前半と後半で本のジャンル自体が変わっているという珍しい形式だけど、これは単に作者が想像のお話を絡めるのがめんどくさくなったんじゃなかろうか。でも面白かったからそれでも問題ないよ。しかし学問の自由ってのは昔も今も脆弱なもんだよなあ。
2022/03/18
Shinsuke Mutsukura
私が注目していた視点が色々テーマになっていて面白かったです。 長州閥(薩摩も似たようなもの)が権力を握ったので世の中がおかしくなったのだと思います。 そもそも、山口あたりの貧乏藩ごときの連中が権力の中枢に巣食っていたから、下品になっていったんだと。。。 この流れが敗戦後に一掃されず悪習が残って、山縣有朋になろうというような連中ばかりが自民党なんでしょうね・・・。 話を元に戻すと、学問ってのは突き詰めると世の中の矛盾に必ず突き当たるってことです。だから、正義ってのは勝者だけの理論なんですよ。
2016/09/06
レフラー
「維新の大義」を根幹におき、東京帝国大学を繋ぎとして「哲学館事件」「大逆事件」、「南北朝正閨問題」をまとめようとする小説。 実は松本清張初めて読んだ。 繰り返しが多く、散漫な構成、最後にほぼ反則技でなんとか体を保とうとしているように、小説としては微妙。(清張自身もあとがきでそう書いている) ただ、資料は非常に興味深く、明治政府の力関係と東京帝国大学の関わり、松本清張の史観ではあるが当時の空気を感じることができた。これまで知らなかった人物への興味もかき立てられたし、まあ、まあ、読んでよかった。
2024/04/18
bittersweet symphony
タイトルに東京帝国大学と出ておりますが、東京帝国大学関連の話は全くの傍系、出てきても文部官僚としての扱いがメインです(「哲学館」事件に関わる人事や渡米した幸徳秋水の動静を探るなど)。話としては、明治後半のいくつものテーマ(天皇制論・大逆事件・学問と政治の関係論・明治維新の大義名分論等々)が数珠繋ぎにあらわれては波紋を残して消えていく様を描くもので、各局面の登場人物が左右上下入り混じり魅力的に描かれています。
2008/05/17
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