ちくま日本文学020 林芙美子 (ちくま文庫)
ちくま日本文学020 林芙美子 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
お金がないからこその遣り切れなさ、どうしようもなさ、それでもしなやかに図太く、生きる市井の人々を闊達に描いたら、林芙美子を右に出る者はいないだろう。「泣虫小僧」は啓吉の視線が瑞々しい分、終盤に畳み掛けるような現実の無常さに息を呑む。「夜猿」も絶品だ。前半は青木繁の最期までの日々を描く。その中で浮かび上がる彼の最大の秀作とされる「女の顔」への思い入れ、それ故に「生きたい」と強く、願い、溢れた薬をも舐める姿に圧倒される。後半からは彼の絵を愛した資産家一家の流転となる。そんな中、不条理な人生への挽歌が救いだ。
2019/06/23
優希
やりきれなさを感じます。どうしようもない状況に置かれている人々。それでもしなやかに動く姿があるのですね。哀愁を見てしまいます。寂しい空気感の中にあたたかさがあるのかもしれません。
2022/02/25
桜もち 太郎
初めての作家でした。10の短編すべてに男女子供たちの貧しさや死が描かれています。どの人物も貧困の中にも世間の土台に根差していこうとする姿が見えます。それは図ったようではなく素直な本能としての在り方のように見えます。解説で田辺聖子さんが作者の言葉として紹介しています。「小説は工夫や技術ではありません。その作家の思想なのです。人間をみる眼の旅愁を持つか持たぬかの道です」と。なるほど「人間をみる眼の旅愁を持つか持たぬか」 それが登場人物に現れていると実感しました。やはり技術工夫だけの小説は読みたくありません。
2015/07/18
冬桐
清貧の作家。という言葉がものすごく似合うなと思った。 初めてこの作家を読んでみたけれども、彼女の幼少期をもとにされている「風琴と魚の町」。そして女の悲しい運命や思いを綴った「河沙魚」。 はたまた逞しい女たちの恋や末路を描いた「魚介」や「した町」 一番好きなのは「下町」かな。 女の時折見せるかわいらしさに惹かれたのと同時に、最後の最後にはまた逞しく商売をする姿。 戦前の強い女性を表していて好きな作品。 他も手に撮ってみようと思いつつも、多分「下町」が好きなことには変わらない気がする。
2022/09/24
hitsuji023
「魚の序文」「清貧の書」「下町」が良かった。庶民生活の嫌な部分を描きながらも重くならないのは作者の性格によるのだろうか。書かれた時代背景がそう感じさせるのだろうか。この人は文章や話の展開がリズム良く進むので読みやすい。そういった意味では講談師が話の元ネタにでもしたら面白そうだとなんとなく思った。
2024/03/24
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