うつくしく、やさしく、おろかなり: 私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫 す 2-12)
ジャンル
うつくしく、やさしく、おろかなり: 私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫 す 2-12) / 感想・レビュー
うりぼう
やっぱり「江戸」である。田中優子先生の江戸が思想の想像力なら、杉浦日向子さんの江戸は暮らしの行動力。岡本綺堂の半七捕物帳に対するタイトルのエッセイが、全て。この文体に死の淵に置かれた身が書かせた侠気を感じ、他のエッセイとあまりに違いすぎる。強すぎて、彼女に似合わないところが、哀しみをさそう。江戸は、「スカスカ」「ブレードランナーに通じ」「粋(いき)は、米を八十九から卒業す」「粋(いき)は色、粋(すい)は恋」「三ない主義が循環型社会を造る」。田坂広志の螺旋の上に私達の未来は、第2の江戸を創る。早逝に合掌。
2010/04/03
佐々陽太朗(K.Tsubota)
「ソバ屋で憩う」を読んで以来、杉浦氏の世界に傾倒しつつある。杉浦氏が惚れ込んだ江戸風俗について存分に語って下さっています。二六〇年にも及ぶ泰平の世にあって形作られた江戸という町と風俗、そこには「無用の贅」という座興に価値を見いだす「粋(イキ)」という美学が息づいていた。それは、現代において一部の高等遊民のみが獲得しうる境地であろう。そのような精神の高みに一般庶民(それも裏店に住むような貧しい者までも)が到達した「江戸」という時代に驚きを禁じ得ない。日本という国に生まれたことがちょこっと誇らしく嬉しい。
2012/02/07
syaori
作者の没後に、江戸に関する文章や講演などを集めて刊行した本。大変印象的な表題は『ちくま日本文学全集』の岡本綺堂の巻のために書かれたもの。このなかで「うつくしく、やさしく、おろかなり。そんな時代がかつてあり、人々がいた。そう昔のことではない」それが江戸だと作者は言っていますが、そうではないのでしょう。人はいつだってやさしく、おろかなもの。でもその部分を受け入れ、愛でたのが多分江戸という時代。そしてその江戸を、死なばもろともという覚悟も込めて「かあいい」と愛した作者の視線が、自分はとても好きだなと思いました。
2018/06/19
ユメ
うつくしく、やさしく、おろかなり。杉浦さんが江戸っ子を評する言葉のなんとあたたかいことか。芯から江戸に惚れこんでいるのが伝わってくる。相手はおろか者だから教訓など求めたりしない。言うなれば情夫。杉浦さんの江戸への思いは、愛でも恋でもなく、色だ。彼らの粋な生き方に共鳴する、その惚れ方がまた江戸っ子らしい。杉浦さんに江戸の手ほどきを受けて、私も江戸に惚れそうである。彼らはからりとしていて、悩みがちな私とは真反対。自分に江戸っ子のDNAが受け継がれていないことを嘆きつつ、せめて色っぽく惚れられるようになりたい。
2017/10/05
saga
師匠が没後に編纂された本書であった。タイトルは師匠が岡本綺堂の著作に寄せたエッセイからのものだが、全体を通して本書を象徴していた。中でも「江戸の食事情」が良かった。三十路を過ぎてご隠居の身となった師匠。しかし、その御身は病に蝕まれていたことを思うと悲しくて仕方がない。「江戸の温泉事情」で語られた、誰に遠慮することなく湯治に出かけられることの叶わなかったのだ。隠居したことでなのだろうか、師匠の筆致は江戸に対する愛いや「色」が溢れ、二十代の頃の文と比べグンと丸く感じた。
2012/12/27
感想・レビューをもっと見る