魔利のひとりごと (ちくま文庫 も 9-8)
魔利のひとりごと (ちくま文庫 も 9-8) / 感想・レビュー
ケロリーヌ@ベルばら同盟
全集から零れ落ちた、貴腐人会のレジェンド、耽美の女王のエッセイ12篇を、森茉莉の作品、その生きる姿勢にインスパイアされ、エッチングに精進した佐野洋子の装画が彩る贅沢な文庫本。自らを魔利と称する自意識。石鹸という字とせっけんという音を敬遠し、サヴォンとルビをふる感性。美しい仏蘭西語は、やまと言葉で訳すべきとする美意識。手にし、喪った宝石たちへの愛惜。没後35年を経て尚色褪せぬ新鮮さに、驚きと憧憬の想いを抱かされる、極上の読書時間を過ごした。
2022/01/31
こばまり
森茉莉は読むというより恋に近いかも。一編一編をゆっくりと味わいました。特に「沐浴」「時刻の翼」はハッとする程美しい。余談ながら昨日神保町で購入した本書。白ハトロン紙にカバーされ手触りといい、日に翳した卵のような色味といい、古書ですがとても様子がいいです。
2015/07/05
りりす
図書館の本。森茉莉には珍しく、読みやすいセンテンスで書かれています。辛口と言えば聞こえは良いもののほとんど暴言の世俗評(偏屈だけど的を射ている)、読んでいて恥ずかしいくらいの巴里への憧憬、相変わらずの如何に自分が特別な人間であるかの誇示、上述の割になぜか自分を俯瞰しているらしい自虐、芸術品のような言葉、そのすべてが素敵。
2017/06/27
あ げ こ
失ったもの。失くしてしまったもの。今はもう、所有していないもの。今はもう、現実にはなく、存在しておらず、自在で、豊かで、色鮮やかなその夢想の、その記憶の内にのみ、あるものの事。その内にのみ、存在し得るものの事。未だ色濃く、幸福として、美しさとして、或いは恐さとして、悲しみとして、残り続けているもの達の事。綺麗で、温かで、軽やかで、柔らかで…淡く、濃く、甘く、妖しく、不穏さを含み、深遠さを含み、不可思議な…。香りであるとか、色、気配や雰囲気、手触りや味や、艶、明暗や陰影、煌めきと言った、自らの愛するそれら…
2020/08/31
あ げ こ
「沐浴」が大変いい。とろとろと、肌を撫でるようにつたう言葉の、甘やかさ、柔らかさ。妖しく、美しく、色の濃い、靄に覆われ、重厚な喜びに満ちた、夢のような一幕。ふわふわとしたその浮遊感に、心は快く、くすぐられる。失望、怒りの熱でさえ、たっぷりと魔で包み、豊艶に。冴えた生身の姿を秘し、並べた幸せの数々に、自分もまた、浸る。
2015/03/25
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