ピカルディの薔薇 (ちくま文庫 つ 18-2 幽明志怪)
ピカルディの薔薇 (ちくま文庫 つ 18-2 幽明志怪) / 感想・レビュー
めしいらず
磨かれた言葉が単なる美文調にならぬよう、博識が嫌味な衒学趣味に陥ることのないよう、物語を抑制すべく鏤められた気の利いたユーモア。背徳的な独自の世界観が読み手を陶酔させずにおかない。一編一編が粒揃いの珠玉のようで、容易に次へと進めぬほどに余韻が深い。その中でもやはり表題作が白眉か。禁断愛の不穏さは物語の通奏低音のよう。その退廃的、倦怠的なムードは、中井英夫の幻想小説を彷彿させる。血腥い筈のラストは酩酊するほどに映像的。伯爵・猿渡コンビ登場の「籠中花」「フルーツ白玉」での奇妙な可笑しみもこのシリーズならでは。
2016/12/26
藤月はな(灯れ松明の火)
読友さんの登録によって猿渡君シリーズに続編や書下ろしが出ていたことに気づきました。感謝^^今回は伯爵の登場は少ないですが猿渡君が作家になっていたりと時の流れを感じます。表題作は夢か現か分からなく、「魍魎の匣」の幸福な形での最後が印象的です。「籠中花」と「フルーツ白玉」は女性の虚栄心の描写が凄まじいです。「甘い風」は満たされていたからこそ、手に入らなかったものと飢えていたからこそ帰れた場所にある意味、ショックを受けました。
2012/07/27
HANA
幽明志怪シリーズ二冊目。前作に比べてホラー色が薄れ、幻想味が濃くなった様に感じる。それでも端正な文体で狂気が語られる「夕化粧」や、最後の最後で一気に悪夢に変貌する「超鼠記」がなんとも恐ろしい。「籠中花」や「甘い風」の南方幻想も素敵だし、「新京異聞」は古代中国の神話の中をたゆたっている様。『蘆屋家の崩壊』を初めて読んだ時ほどのインパクトはなかったものの、載っている短編は総じてレベルが高かったです。あと伯爵の出番があまりなかったような。
2012/10/10
hanchyan@だから お早うの朝はくる
半酔で訪れたバーのカウンターで、惰性でオーダーしたギムレットをひとくち含むや、途端に覚醒することが稀にあるが、たとえるならそんな感じか。キリっとしてる。本書に採られた小説はどれもが「教科書に載ってるような文豪の、あまり知られてないエンタメ寄りの作品」なんて言われれば、頭から信じてしまいそうだぞ(笑)。レシピはもちろんのこと、グラスを乗せるコースターやそれを支えるカウンターの材質、照明の光度・角度まで、計算され尽くした一杯。とかいうと敷居が高そげたが、ちゃんとエンタメなんだよね。マジすげえなあと思う。
2022/05/23
さっとる◎
そもそも異界て何だろうか?自分の属する世界の外側。そんなこと言われるとわかったような気になるけれども、もともと自分の属する世界てのがそう広いわけじゃない。そうすると世界はつまりほぼ異界でありそれは自分にとって未知の人形作りであったり超鼠であったり大挙して押し寄せる寄居蟲であったり食文化であったりして、ふと、あれ?異界は現実?て落ち着かない気持ちになる。私が知らないだけでその中にいる人達にとってはそこが世界である。みたいなことを何とはなしに思う。もはや一人のこの人を表すわけではないかもしれない猿渡がいいね。
2017/08/01
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