小説のストラテジー (ちくま文庫 さ 33-3)
小説のストラテジー (ちくま文庫 さ 33-3) / 感想・レビュー
井月 奎(いづき けい)
有難い本です。難しいですが。著者が早稲田大学で行った講義を編集したもので、最高学府の、しかも早稲田大学という文芸において最高の(品性においては中くらいですかね。冗談ですよ)学び舎での講義を文章で読めることの幸せは筆舌に尽くしがたいものがあります。読み手と書き手の関係性に重きを置いており、書き手の個性や狙いを見定めないと、ささくれの痛みすら想像できず、ぴたりと思惑を一つにして、書き手の挑戦をがっしりと受け止めたときにはホロコーストの痛みや残酷でさえも心に浮かぶことが叶う、小説の力を知ることができる本です。
2016/10/08
三柴ゆよし
一流の書き手であり、おそらくは超一流の読み手でもある筆者による、小説の読み方・虎の巻。読み手が細部を有機的に組織化させ、そうして得られた全体から、更には細部の必然性がフィードバックされる。つまりはフィクションの表面に戯れ、表面に溺れ、表面に死ぬことこそ、その本懐。いわゆるアカデミックな読み、批評的な読みとは正反対の読みを提示してはいるのだが、実のところ、これほど〈意識高い〉読み方はなくて、それができないからこそ、みんな安易な深さに逃げていくのだ。痛快というほかない筆致で、読中、何度膝を打ったかわからない。
2017/08/16
マウリツィウス
【戦術/戦略】言語芸術論を可能領域まで拡張認識した佐藤亜紀の方法論は性質的に解釈すれば作家内における創作/鑑賞の両義的合一性を意味するも実際は伝統価値論観点からのポストモダン思想批判と適応する。そしてボルヘス以降のミメーシスでしかない現代文学文壇を確実に批判した。STRATEGY意味に含まれる形式論批判性を熟慮再考すれば古典ギリシャ時代の厳密定義からアリストテレス以前の価値段階でこの方法論を十分に見出せる。そしてその原型はギリシャ経由ではなく《ゼノン》つまりローマ的起源をギリシャ化した評価/創造を同義化。
2013/07/04
ndj.
「あらゆる表現は鑑賞者に対する挑戦です。鑑賞者はその挑戦に応えなければならない。」表現と享受の関係はコミュニケーションと呼ばれるものよりはるかにダイナミックな、闘争的なものであると。表現者でもある佐藤氏からの挑戦状。読み手側の実践としてのハドリアヌス帝の回想からロリータ、水晶内制度と「人間」の概念が変遷していく様をたどる後半部分も圧巻。
2018/01/12
tomosaku
小説を書く人、読む人の立ち位置を考察し、その関係性をつまびらかにしていこうとしている本。早稲田大学での著者の講義を基にしているとのことだが、完全にリライトされているのか、口語的な平易さはなく学術書に近い感すらある。また、例示に西洋文学の古典作品が多く、そもそも西洋文学に疎い身にはかなりの難読。一定の、その分野の教養を持っての読書が期待されるか。小説の構成、構造論始め、扱われているテーマ自体はどれも興味深いので、自分の学の無さを恥じつつ、もっと分かりやすいと嬉しかったなー、と思う。
2017/05/10
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