増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫 や 43-2)
増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫 や 43-2) / 感想・レビュー
コットン
『夢の遠近法』を読んでいるのでほぼ再読。短編集の最初を飾るのは、大学三年次に書いた実質的な処女作『夢の棲む街』:浅い漏斗型の街にドングリの実によく似た街の噂の運び屋<夢喰い虫>や全く見事な脚を持つ(但し上半身は飢餓状態の子供のような)劇場の踊り子たち<薔薇色の脚>などが登場する。山尾さんは最初から完成された世界を持っていたのを今年最初の読書で再確認しました。
2015/01/02
風眠
この作品集の感想を、どんな言葉を使って書いたらいいのか、私の文章力では的確に表現できない。言葉、言葉、たくさんの言葉たち。感情に走らず洗練された筆致。その圧倒的な世界観。そこには、残酷なものも、美しいものも、グロテスクなものも、ロマンチックなものも、精密に、緻密に、密集している。作者ご本人はSFだと言っているけれど、SFというジャンルで一括りにはできない作品集だと私は思う。夢幻の世界が無限に続く感じ・・・たぶん今の私には、夢幻、そして、無限、という言葉でしか表現できない。映像が立ち現れては、また消えて。
2019/01/29
優希
山尾悠子さんの初期の作品がおさめられています。どの話も濃密な幻想の空気が漂います。重厚な神話のような美しさも感じます。人工的な美のようでありながら普遍的な雰囲気。繊細で強い印象を鮮やかに形にしていると言えるでしょう。作品に充てられたようにクラクラしました。異世界へ誘われたような感覚に陥ります。
2016/05/07
masa
ビルの群れは夜の溜まりになって、屋上では半透明の表面張力が破裂しそうだ。薄闇の底から見上げた月光は、時雨れのように屈折したプリズムを降らせる。最初の微風は、いつもことばから生まれた。微風はやがて唄になる。唄が物語を創造して、物語は世界を想像する。全人類に伝わることばよりも、あなたにしか伝わらないことばを探してる。チャック・ベリーが黒と白の境界線を変えたように、少しの嘘を赦せば、痛みは常に個人的で"いちぶんのいち"でも、やがて幻想と現実の境界線を超えるだろう。哀しみは誰のせいでもない。僕は唄うのをやめない。
2020/02/22
HANA
「世界は言葉で出来ていると」の言に違わず、圧倒的な言葉とイメージの奔流に飲み込まれ今現在いる世界から別の世界に押し流される。言葉は絢爛、イメージは終末後の静謐さ。ある時は町の崩壊、ある時は円筒状の腸詰宇宙、ある時は赤い繭、ある時は箱の中の美女。ほとんどの作品が破滅の予兆とそれが孕む静謐さを内に含み、しかし言葉のせいでそれが何とも甘美なものに感じられる。言葉による世界の構築とそれの破壊って、読者にしても一番幸福な読書体験じゃないだろうか。読んでいる最中、言葉にあてられて頭がぼんやりしたのは久々の経験である。
2015/05/23
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