開高健ベスト・エッセイ (ちくま文庫)
開高健ベスト・エッセイ (ちくま文庫) / 感想・レビュー
佐島楓
角田光代さんが開高健の、特に食にまつわるエッセイが好きだと書いていらっしゃったので、読んでみることにした。まず、何とも言えない文章に驚いた。すごく変わった方だということが殴られたように伝わってきた。とにかくエネルギッシュであり、ときにぐるぐる円を描くようであり、あまり近年の作家には見られないタイプ。読み進めていくうちにいろいろと腑に落ちたのだが、興味の対象が猥雑なものから人間の本質に迫るものまで多岐にわたっており、本当に一言では説明できない。字数が足りないが、衝撃を受けた。
2021/01/29
奥澤啓
開高は芥川受賞後、『日本三文オペラ』、『ロビンソンの末裔』の二編の長編を書いたものの、小説を書く事に苦しんでいた。親しくしていた武田泰淳から「小説が書けないならルポを書いたらいい」とアドヴァイスされた。そして生まれたのが『日本人の遊び場』と『ずばり東京』だ。「週刊朝日」は破格の稿料をだした。高度成長期の東京を観察する視点は面白い。何よりも読ませる文章だった。多くの読者を獲得した。丸山真男が編集部に感想を書いた手紙を送ったほどだ。当時作家はルポは書かない時代だった。そういう奇妙なプライドを作家は持っていた。
2019/06/17
奥澤啓
「週刊朝日」の「ずばり東京」は人気を博した。ご褒美をしたいと編集部は開高に申し出た。それに対して開高は、「ベトナムに行かせてほしい」と答えた。そのルポも「週刊朝日」に連載された。連載では「ずばりベトナム編」と題された。帰国後その連載を全面的に書き改めたのが『ベトナム戦記』である。この頃から、開高はノンフィクション作家として多くの読者を獲得していく。そして、ノンフィクションから、つまり現場で観察した物から、自分の感性を絞りだすようにして小説を書くという姿勢が生まれる。そうして誕生したのが『輝ける闇』である。
2019/06/17
奥澤啓
『ずばり東京』は今読んでも面白い。文体にも工夫した。開高が大阪人である事は周知の事だ。大阪で寿屋(現「サントリー」)に就職した後上京した。大阪言葉を「ひさっげて」上京した。高度成長期の東京は開高にとって興味が尽きない「観察対象」だったのではあるまいか。東京人ではない故に見えた「東京」があったのではあるまいか。地元の者は意外と地元の事は知らないものだ。東京人は東京を知らない。大阪人開高が見て書いた『ずばり東京』は、将に、ずばり面白い。その観察者の眼でベトナムを観察したのだ。凄まじいまでの肉感で観察したのだ。
2019/06/17
奥澤啓
「ソルボンヌの壁新聞」は、たまたま手元に初出の「文藝春秋」がある。初出にはタイトルの後に文庫にはない一文がある。「ヴァカンスのパリ。選挙はドゴールの大勝利に終わった。しかし学生達の沸湯は続いている」とある。本文庫では巻末に詳細な初出情報があるのもありがたい。初出でしかわからない事がある。本文庫とは無関係だけれど、最近、開高のある対談を初出にあたったところ、新たな年譜的事実が判明した。小玉氏の本文庫の解説のタイトルは「「虚」と「実」の関係」である。『夏の闇』も「虚」と「実」を腑分けする事でわかる事がある。
2019/06/16
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