緋の堕胎 (ちくま文庫)
緋の堕胎 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
HANA
性の深淵がそのまま地獄まで続いていく。ただし地獄への道行は鬱々でありながら甘美なものも含まれていて…。以前より名高い表題作を含んだ短編集をようやく読む。評判に偽りはなく見事な作品ばかり。堕胎医に新興宗教に嵌った妻、胎児の始末をする書生に訳ありな患者が織りなす地獄曼荼羅。篠突く雨の中泥土の道を歩かされるようなそんな陰鬱な話でした。他にも人魚と青年の交流が異常なラストを迎える「人魚姦図」や仏蘭西の僧院での異常な行動が目立つ「塩の羊」が名作。兎に角各作品の湿気というか粘着き具合が半端じゃない、いい作品集でした。
2019/07/25
かわうそ
いろんな要素を盛り込みすぎて結局何の話だったんだろうと思ってしまったりもするけれど、奇想天外で面白い作品が目白押しで大満足。お気に入りは表題作と「塩の羊」「笑う衝立」あたり。ぜひとも第二弾もお願いしたいところです。
2019/01/23
cinos
戸川昌子さんは初読み。帯には官能ミステリーと書かれて祈ますが、淡々とした描写でいやらしさは感じません。表題作は堕胎の話で官能というより怖さが強いです。「嗤う衝立」はやられた感が強いです。
2019/10/28
そうたそ
★★★★★ シャンソン歌手としても有名だった著者のミステリ短編傑作選。今となっては著者がミステリ作家だったことはシャンソン歌手としての知名度に比べれば忘れ去られているのではないか。これを読む限り、幻想的で官能的ながらラストで一気に現実に引き戻されるような意外性のあるラストで魅せてくれる唯一無二のミステリの書き手だと思える。傑作選というだけにハズレなし。表題作のどこか背筋の凍るラスト、「人魚姦図」の奇妙さの奥に潜むユーモア、「嗤う衝立」での妙な不信感に襲われるラスト等々、是非一読頂きたい傑作群だった。
2019/04/17
びっぐすとん
図書館本。初読作家さん。戸川さんがテレビのコメンテーターやシャンソン歌手だったことは知っていたが、作家だったとは知らなかった。しかし読んでみるとあの少しケバい化粧の雰囲気そのままに妖しく、けだるげで、どこかやけっぱちで退廃的な作品たちはコケティッシュだ。死と性は究極の恍惚ということだろうか。悪趣味ギリギリ一歩手前という感じだが、あり得なさすぎな設定がむしろ滑稽さを生んでいて、かえって著者の精神は健全な気がしてくる。とはいえアクが強いので万人向けではない。
2021/05/13
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