歪み真珠 (ちくま文庫)
歪み真珠 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
青蓮
一体どうやったらこんなにも美しい物語を紡ぐことが出来るのだろう。不思議に展開される物語にただただ溜め息しか出ない。どの作品もミステリアスな陰影があり、全てを晒さない余白がまた美しさを際立たせる。山尾悠子さんの本は「増補 夢の遠近法」を読んだことがあるけれど、初めて彼女の作品に触れるならば本書をお勧めする(読みやすいという理由で)。積んでる「ラピスラズリ」も読まねば。どれも好きだけど「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」「マスクとベルガマスク」「火の発見」「紫禁城の後宮で、ひとりの女が」が特にお気に入り。
2019/08/13
かりさ
此処ではないどこかで密かに存在し佇む場所の物語。人魚の祝福、美貌の双生児、春先の夢見る冬寝室、天使の訪れ、後宮の女…空想の中で紡がれた世界は、幻想標本箱にひとつひとつ大切に仕舞われた美しい宝石のようでそれはもう陶酔の時間でした。《相擁した双子はすでに女装とも男装ともつかず、白タイツの二対の脚は軽やかに五線譜のみちを辿って空白に出た。》(「マスクとベルガマスク」)…殊更に美しい描写で、とても大好きな世界。薄れる意識の中、夢か現かの曖昧な境界を行きつ戻りつするような感覚。できればこの夢から覚めたくない。
2019/05/26
カフカ
山尾悠子さんによる幻想掌編小説集。どれも硬質で美しい…。全てを理解出来たかと言われるとやはり私には難しいものもあったのだが、頁を開けばすぐにその美しい世界に入り込めて、現実の音が聞こえなくなる程のめり込んだ。山尾さんの本を読むと、その美しい文章と幻想的な世界観を私の拙い語彙力では上手く表現することがてきなくて、それが歯痒い。『ドロテアの首』は『ラピスラズリ』の落穂拾いのようなものらしく、以前読んだ『ラピスラズリ』を再読したくなった。『娼婦たち、人魚でいっぱいの海』、『日向性について』か特に好みだった。
2023/04/02
井月 奎(いづき けい)
私見ですが、世阿弥の書いた夢幻能は祈りだと思っています。鎮魂の祈り、存在の証明のための祈り、恐怖から逃れるための祈り。なぜ山尾悠子の作品の評で能を取り上げたのかと言うと、この作品を読んでいる間、ずっと謡が聞こえていました。『敦盛』『当麻』『花筐』そして『井筒』。バロックの語源、意味である歪んだ真珠を題に持つこの掌編集の作品ひとつひとつが私には透明でありながら見渡すことかなわぬ、かすみ、蜃気楼のごとき祈りに感じるのです。誰が何に祈っている?何のために?それらを言葉が陽炎のようにたなびき美をかすめるのです。
2020/03/07
小夜
美しくて幻想的な掌編が15。死火山の麓の傾斜した土地に立つ娼館、魔王の劇場の美貌の双子、水源地の管理者である魔女と裾を曳く橋姫、茸が化けたような白いむすめと銀の皿の首。ここではない別の世界にこわごわと足を踏み出すように、少しずつ慎重にページをめくりました。まるで神話か絵画のように完璧な美に裏打ちされた物語たちはどれも宝石のように上質で、山尾さんの言葉の選び方一つひとつに恍惚としてしまいます。覚めたくない夢。難しくて理解しきれないところも含めて全部好きでした。
2019/09/15
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