愛についてのデッサン ――野呂邦暢作品集 (ちくま文庫)
愛についてのデッサン ――野呂邦暢作品集 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
KAZOO
最近野呂さんの本をぽつぽつと読んでいます。この短篇集も表題作となっている連作が楽しめました。父親から古本屋を引き継いだ若い店主が古本を介して様々な人々とのやり取りを描いたものです。ミステリーがらみのものもあったり、長崎が舞台のもあります。この作品以外の作品は若干読みにくいものがあったりしました。
2021/11/07
ばう
★★★書店で見かけなかったら多分一生知らなかったかもしれない野呂邦暢という作家の短編集。古本屋の店主佐古啓介が、持ち込まれるちょっとした謎を追う話が6篇と、どこか常軌を逸した雰囲気の話が6篇。佐古啓介の話とその後の6篇は全く雰囲気が違って、最初の「世界の終わり」を読み始めてちょっと混乱した。核戦争で世界が死に絶えていく中、無人島で繰り広げられる闘い、アメリカの傷痍軍人に振り回される話、アパートの隣人との闘いなど、どれも興味深い話でした。最後の『鳩の首』の終わり方が怖い。
2023/06/27
さらば火野正平・寺
『愛についてのデッサン』は、みすず書房版で読んでいたが、こうした新しいパッケージのお陰で気持ち良く再読できた。二十代の若き古本屋である主人公・佐古啓介が謎解きする連作小説。通俗的だと評する人もいる。編者の岡崎武志もテレビのサスペンスに例えて いる。でもそれがいいとしか私には言えないのだ。謎解きながら大袈裟なところは全くない。どの話も良い感じで小さく畳むように終わる。亡父のルーツを知る最終話ですら、些細に終わる。佐古啓介の人生はその後も続くのだ。少し欠けて少し足りないこの小説は、それ故に読み飽きぬ永遠だ。
2021/07/02
ちゅんさん
表題作はかなり好みの連作短編だった。若き古本屋店主が人間・恋愛模様や謎を古書を通して解き明かすという本好きには堪らない内容。登場人物も感じが良く人間の機微がちょうどいい塩梅に描かれていて読んでいて心地よかった。“旅は一人に限る。なぜなら、二人でしたならばもっと愉しいに違いないと思うことが出来るから”など作中の会話も素敵で今年を代表する一冊になりそう。
2021/06/23
まこみや
以前みすず書房版で読んだときは、語りの内容にばかり目を向けていた。今回再読して、その語り口こそが大きな美質だと再認識した。今その語り口を文体と呼ぶならば、その特徴は、①抒情的だが感傷的でなく、②対象との距離のとり方が絶妙で、③解像度の高いクリアな文体といえるだろう。ある意味でそれは明晰な文章だが、その明晰さは、「思考(論理)」の明晰さではなく、「描写」の明晰さである。「語り」の文章の手本たるにふさわしい。
2021/10/03
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