須永朝彦小説選 (ちくま文庫)
須永朝彦小説選 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
KAZOO
この作者の作品を読むのは初めてです。丸谷才一と同じように旧仮名遣いで書かれているのですが気にならないくらいの内容に引き込まれました。銀毛狼皮、悪霊の館などは外国の作家と勘違いしてしまいます。この編者の山尾悠子さん、皆川博子さん、渋澤龍彦、谷崎潤一郎に通じるものがあると感じました。もっと読みたい気がします。
2021/12/23
藤月はな(灯れ松明の火)
読了後、どうしてこの作者が在命時に作品を読み漁らなかったのかと己の節穴ぶりに歯噛みするしかなかった。耽美な世界感、決してヒステリックになり過ぎず、世界を冷徹な眼差しを以て語る玲瓏たる美文に惑溺。時を永らえる女の浅墓な思惑を拒絶する青年たちの最も艶な死に姿に微笑みが零れる「ぬばたまの」、不変の美に傅く愉悦と懊悩、そして残酷美に彩られた「天使Ⅱ」、麗しき蛇に巻き付かれたくなる「悪霊の館」、俗物で醜悪に生きる家族を唾棄しながらも己が求める美しき関係にはたどり着けぬ無常に立ち竦む「聖家族」シリーズがお気に入りです
2021/09/28
コットン
吸血鬼や美少年的要素の短編集。こう書くと軽いラノベ調を思い浮かべると思いますが、文庫本なのに旧仮名遣いや銅板腐蝕画をエッチング、紅玉をルビー、爵をジャック、黄金郷をエル・ドラドといったルビ打ちの効果、海外を舞台にしていることなどにより独特な幻想世界を構築している。映画で言えばビスコンティの短編を観ているよう。山尾悠子さんが編集されていることも幻想文学ファンには嬉しいです。
2021/10/29
HANA
文章には様々な働きがある。例えば情報を伝える、や小説として人に様々な感情を呼び起こせる等。ただ極まれに文章自体が持つ美しさに魅せられる事がある。本書に収められた小説群はその稀有な例にあたるのではないか。ここに書かれているのは吸血鬼や天使、維納に東欧と憧憬と郷愁を呼び起こすものばかり。それを宝石の研磨にも似たような細心さで練り上げた鏤骨の文体で磨き上げている。例えば冒頭の「契」。僅か数頁の小品だが、その文章、何度も読みなおしその美しさに耽溺させられる。読書を趣味とする上で、本書を読まないのは不幸である。
2021/10/02
Shun
須永朝彦氏は昨年他界されており、その豊富な遺作の中から山尾悠子さんが選びまとめられたものが本作になります。ジャンルはゴシックホラー等の幻想・耽美小説のものが中心で、全体として雰囲気に味わいがあり私の好みとマッチした珠玉の作品集と言えます。吸血鬼をモデルにした作品からは、暗鬱なイメージの中に映える陶磁器のような白い肌、そこに唇を当てる視覚的な美と官能が意識される。また小説内に流れる音色を辿ってゆけばチェンバロのあの独特な響き、詩情が湧きそうな音色は吟遊詩人のつま弾く弦の音か。芸術性と幻想の世界に酔いしれた。
2022/05/13
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