王朝奇談集 (ちくま学芸文庫 ス-14-2)
王朝奇談集 (ちくま学芸文庫 ス-14-2) / 感想・レビュー
HANA
平安時代は王朝の雅さに反比例するよう夜はどこまでも濃く闇に塗りつぶされている、そんなイメージがある。本書はそんな平安時代に記された奇談を選りすぐったアンソロジー。訳者の文体が持つ典雅な魅力がこの時代の文章にぴったりと合っており読んでいて実に心地良い。内容も役行者の伝説から円仁が唐の地で出会った人血で布を染める纐纈城といったスケールの大きい話から、舞茸を食べて舞い踊る人々や盗み食いをする僧、寝たふりの稚児など当時の人の息吹が感じられる話まで多岐に渡る。古典の持つ力、話の持つ力を再確認させてくれる一冊でした。
2022/12/21
藤月はな(灯れ松明の火)
編纂者が須永朝彦氏の為、書物の王国シリーズ(国書刊行会)と重複している作品もあり。「役の優婆塞」が役小角の偉大さという「聖」を表すのに対し、その次の「吉祥天女像」で吉祥天像に欲情するという「俗」を提示する作品を配すという大胆さに舌を巻く。一目垣間見たが故に激しい愛欲に堕ちて鬼になった僧に魅入られた后の淫靡な関係で有名な「染殿の后」の鬼気迫る描写も素晴らしい。「鶯姫」は異説「竹取物語」。「巨人の屍」は淀川に迷い込んで亡くなった鯨の遺体の始末がニュースになる今だからこそ、タイムリーな読書になりました。
2023/01/15
翠埜もぐら
あちこちの説話集や歴史書?から不思議な話を集めたため、一話が短くて大変読み易かったです。仏教関係は多少末香臭かったけれど、巨人の死体の話とか、おいたした蕪で妊娠しちゃった話とか、きわどい話もあってやっぱり今昔物語からの話は面白いわ。宇治拾遺物語の「稚児の空寝」なんてそのまま絵本にできそう。かわいい。
2023/06/26
gorgeanalogue
夏休みのお供。怪異譚を読むには、ものみな炎天に焼き尽くされたような夏がふさわしい。編者の須永明彦氏はなぜか、読みそびれていて、敬して遠ざけることになってしまっていた。折口信夫の「古語復活論」を思い出すまでもなく、訳文が訳されすぎず、古語が残されているのが、無教養な読者にとってはありがたくまた味わい深い。「古事談」の「大御室の寿命」は「捜神記」にも出てくる話に似ているし、説話の源流をたどるのも面白い。一方で解題にも「類例が無い」とある、「選集抄」の「人を造る」には魂消た。吉田健一の怪異譚にも似た読後感。
2022/08/23
凛風(積ん読消化中)
平安時代から鎌倉時代の、ちょっと不思議なお話を集めた本。『今昔物語』あたりは有名どころが多く抜粋されていたけれど、今回は『古事談』を読めたのが良かった。多分、初読みだと思う。こんなに面白いのに、何故、読まれないのだろう、と思って解説を見たら、原文は和漢混淆文で難解らしい。なるほど。全体に一人の編者が翻訳しているので、原典の違いが目立たず、わかりやすい現代語訳で読みやすい。その上で、古文の風雅は十分に残されていて、味わい深い。「読書の秋」らしさを満喫できました。
2022/09/25
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