裏ヴァージョン
裏ヴァージョン / 感想・レビュー
遠野
すごい、面白かった。松浦理恵子は小説という「方法」と、それを使って抉り出したい「目的」に対して極めて自覚的で、その明晰さゆえに万人受けしない。けれど彼女が扱うのは、いつだってとても普遍的な、人と人との関係性だ。 この世界に適応(したふりが)できた子と適応(したふりさえ)できなかった子と。本当はあなたこそが正しくて、世界の方が間違っていて、だからあなたを守ってあげたかった、空だけ見ててほしかったのに、あなたが一番望むものを、私じゃ与えてあげられない。あなたを欲しがることができない。ひどく切ない一人と一人だ。
2015/12/16
はなちゃん
ものすごく久々の松浦さん。最初、妙な翻訳物調の話が続きナンダコレと投げ出しそうになりつつ、私小説調になる頃には、話の後のツッコミコメントの意味が分かり始めて面白くなりました。昌子たちの少女時代が自分の学生時代に微妙にシンクロして、ちょっと痛かったです(笑)。最後、え?この読後感?!と読み始めた時は思いもしなかった自分の感想に驚きでした!
2014/04/22
naminnie
何とも捉えどころのない、感想を言葉にし難い物語だった。物語、、なのかな、そうだよねそうだよね。と誰かと確認したくなるような。それでも心に残ってしまうような、不思議だった。
2011/07/15
aya7928
何年かぶりに再読。はまってた頃は年に5回くらい読み返していたのでだいたいの話はまだ覚えてる。個人的にはナチュラル・ウーマンと甲乙つけがたい傑作だと思うが、ナチュラル・ウーマン以上に読者を選ぶ本ではある。いきなりホラー小説から始まって、そこからしばらくなぜかアメリカのマゾのレズビアンの話が続いて初読の時はあっけにとられたのを覚えてる。真ん中辺まで来てようやく読者も事態を把握するわけだけど、そこから先に展開していくおばさん二人の不毛な友情が切ない。昌子もだいぶあれだけど鈴子も実は相当さびしいよね。
2012/09/19
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居候の元小説家が、家賃がわりに毎月小説を書き、家主がそれに感想を書く。もちろんそれは(社会の通年上)等価交換ではありえず、そして言葉では相互の心情を透明に伝えあう(=交換する)ことなど出来ないのだから、ふたりの関係は軋んでいく。それでもなお、ふたりは言葉をでもって関係を持とうとするのだし、書くことを止めはしない。その姿はあまりに滑稽で、同時にあまりに悲しい。いつでもわたしたちは言葉に夢を見ずにはいられず、言葉を発し、書いてしまって、そしてそれが失敗だということに気づいて、あとで呆然とするのだ。
2017/05/04
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