ファルセットの時間 (単行本)
「ファルセットの時間 (単行本)」のおすすめレビュー
元女装家が<理想の美少女>と出会ったら。似合わない服を着るのはよくないこと? 切ない欲望と交流を描く
『ファルセットの時間』(坂上秋成/筑摩書房) 上京したばかりの頃、人の多さ以外に「さすが、東京」と感心したことがある。 遊びに出かけた新宿で見かけた、ふりふりとしたピンク色のワンピースを着た男性。人混みのなかでも、パッと目に飛び込んでくるインパクトがあった。しかし女装をしている本人も、まわりも、何食わぬ顔で歩いているので「東京は違うなあ」と思ったのだ。 『ファルセットの時間』(坂上秋成/筑摩書房)の舞台もまた、東京である。本作はかつて女装をしていた34歳の竹村が、16歳の“美少女”ユヅキと出会い、自分のなかに眠る<クィアな欲望>と向き合うまでの物語である。 初めて女装家を見た時の衝撃を思い出して、なんだか違った世界が覗けそうだと興味本意で読み始めた私からすると、本作は驚くほど静かで、日常的だった。 ユヅキは街を歩いていても女装とは気づかれないくらい、可愛らしい少年だ。端的にいって、恵まれた容姿をしている。一方で、竹村は年齢を重ねるにつれ、体毛が濃くなり、脂肪がつきやすくなった自分の体をどこか嫌っていた。竹村はユヅキと出会うまで、8年ほど女装の世界から離れてい…
2020/8/1
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ファルセットの時間 (単行本) / 感想・レビュー
よっち
かつて女装をしていた34歳の竹村がたまたま見つけた、16歳の「美少女」ユヅキ。その出会いから理想の女装像に惹かれ、複雑な想いや葛藤を描いてゆく物語。似たような嗜好の存在を見つけてそれが気になって仕方ない竹村。そこから始まった関係で感じる忘れていた思い、けれど今はもう自分は止めて仕事や家庭もあり、同じようにはなれない現実。かつての自分を知る人の変わった部分や変わらない部分に安堵し、自らにないユヅキの若さに対する複雑な想いを抱えて、けれどそんな自らの想いを認め折り合いをつけてゆく竹村の姿がとても印象的でした。
2020/08/17
みのくま
本書はセクシズムとルッキズムとエイジズムの交差点にあるような作品であり、読後感は33歳の現在のぼくと16歳の過去のぼくの双方ともがボロボロに殴られたような印象を受けた。33歳のぼくは不可逆的な老いに直面させられた事によって。16歳のぼくは「ぶさいく」な自分に直面させられた事によって。本来ぼくは本作で重要事だとされている価値観には全て興味がない。服装も容姿の美醜も年齢もどうでもいいと思える人間なのだが、ぼく個人がそれでよくても周縁から雑音が聴こえていた事は何度もあった。なんでこんな事で馬鹿にされるのだろう。
2020/12/29
AKAWAKA
もう絶対そこには戻れないし、彼女にはなれないし、羨ましいし、妬ましいような気持ちすらある。そんな気持ちと、蓋をしていた気持ちに向き合ってるお話。でも、私もかなり人に恵まれてる。みんな、あたたか。“私“の人生、楽しそうに見える。何よりも34歳という年齢はこんなにも若くないことに驚く。
2022/08/05
まさひろ
おもしろい。他の作品も読みたくなった。
2022/01/31
とっしー
きらびやかな装いに覆われた秘匿。カテゴリーなど意味をなさない現実界のどこかで、今夜も背徳に翳りを添えた唯美が舞っている。酒とコロンとファンデーションの匂いに満ちたその一角では、曖昧になった性差の境界で、つまらない静いと偏りが繰り返される。「彼女たち」 は静かで、強かで、歴然的で、決して Queer などではなく、唯一無二の真実だ。
2021/12/28
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