水辺にて
水辺にて / 感想・レビュー
あきあかね
川、湖、海といった水辺への憧れと、様々な鳥たちへの愛情に溢れている。 著者は時に自らカヤックを操り、各地の水辺を訪れる。スコットランドやアイルランド、カナダ、北海道、冬の琵琶湖など訪れる先が北の国が中心だったり、天気が雨や雪の時が多いからか、全篇がコローの絵のような銀灰色に包まれている印象を受ける。湖面や白樺の林に降りしきる驟雨や冬の夕方の柔らかな陽射し。読み進めていると、自然と穏やかな心持ちになってくる。 「天女の羽衣」譚が世界各地に存在し、羽衣がアザラシの皮になっている場合もあるという話が⇒
2020/09/15
イプシロン
森も、そこで歌う鳥も、囁いている小川も、耳朶をうつ風も、すべては自分を写す鏡。そうした自然のなかでより深く自分を写す鏡があるとしたら、それは水なのだろう。直感でそうしたことを味わってきただろう梨木さんが覗いた世界は美しく恐ろしい。小説では味わえない深みと淀みを見せてくれる翳りなき鏡といえるエッセイだ。人が世界の一部であり世界そのものであるためには、跳躍しなければならないのだ。危機に迫まられたときがその時なのだ。竦むのではなくじっとしているのでもなく、飛び立つのだ。心にある翼を広げて。遥かな宇宙へと……。
2018/04/18
うしこ@灯れ松明の火(文庫フリークさんに賛同)
カヤックで湖畔へ向けていそいそと漕ぎだそう。さあ、素敵な光景が待っている・・。水辺にまつわるエッセイ。カヤックを漕ぐ時の息遣いや水音が聞こえてこないのが不思議なくらい、静けさに満ちていました。梨木さんのフィルターを通すとこんなにも情景を鮮やかに感じることができるのかと実感。自分にそのカケラさえないことが悲しいけど、エッセイを通じて梨木さんが感じたことを少しだけでも追体験できたのが嬉しかったです。あぁやっぱり梨木さんが好きだなぁ。★★★★
2010/09/21
愛玉子
静かな川面から立ち上る靄、その中をゆっくりと滑るように進むカヤック。タンクを背負って海に潜る時のように『異世界へ侵入する』という気持ちにはならない、陸と水の境界線上に浮かぶ静かな乗り物。ゆっくりパドルを操作しつつ、作家は今目に写っているものから世界で起きた出来事へ、そして自分の中へと思考を巡らせる。静謐で透明な文章はエッセイとして綴られながら、物語の欠片を掬い上げていく。彼女の小説がこういう経験に根ざしているのだと思うと、改めて再読したくなる。猛暑の中、涼やかな文章は一服の清涼剤になった。
2010/08/20
さつき
表紙の写真にひかれて手に取りました。カヤックは一度も乗ったことがないのですが、いつかやってみたいと思っているので。エッセイですが、水辺に生きる鳥たちや森の木々への眼差しがとても細やかで、いつもながら梨木さんの世界に浸れる作品でした。アイルランドや北海道など様々な土地での思い出が語られているのも楽しかったです。
2016/03/21
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