英国短篇小説の愉しみ 1
英国短篇小説の愉しみ 1 / 感想・レビュー
かりさ
英国の儚く光を落とし寂しさをたたえた雰囲気が、幽霊や怪奇の物語をさらに幻想豊かにしていて、この好きな世界をゆっくり時間をかけて漂いました。西崎憲さんが編訳した英国短篇小説たちは、どれもそこはかとない怖さに包まれた幽玄に満ちた美しい短篇集です。どの作品も心に波紋を残す幻想さでしたが、お気に入りは、ジェラルド・カーシュ「豚の島の女王」、マージョリー・ボウエン「看板描きと水晶の魚」、W・F・ハーヴィー「羊歯」、ニュージェント・バーカー「告知」、J・ゴールズワージー「詠別」…英国短篇の世界は面白く、堪能しました。
2020/01/09
井月 奎(いづき けい)
堪能しました。英国流のユーモアと陰鬱、それが全作品に通底しています。表題作「看板描きと水晶の魚」がモノクロームの世界の中で水晶の魚のみきらめき色彩を光とともに放ちますが、それは永遠の苦しみをのみ照らすのです。ウルフの「鏡の中の貴婦人―映像」はとらえようによってはさらに残酷です。ウルフの優しい心の中にこのような残酷さが根付いている、それは彼女にとって苦しみであったでしょう。「リーゼンベルグ」がなにを隠喩しているのか、実に長い考察が必要です。「豚の島の女王」つかの間の安息と語り継がれ、途絶える物語。切ない話。
2020/01/13
燃えつきた棒
読んでいるとなんだか無性にチェーホフが読みたくなってきてしまう。 巻末の西崎憲さんの「英国短篇小説小史」が、一番面白かった。 そこで、西崎さんもチェーホフについて項目を設けてボリュームを割いている。/ 【チェーホフがなしたことはまず短篇小説というものから非日常的な一切を取りのぞくことだった。チェーホフは超自然、驚異、珍しいもの、事件などの代わりに「日常」を置いた。しかし、その「日常」は自らがその地位を奪いとった「超自然」その他のものたちと同様に内部に不可解さを孕んだものでもあった。→
2023/04/27
kurumi
ゴシックな中世の時代背景に漂う異端の者達。暗闇が広がる大広間を、蝋燭の灯りのみで歩く様な覚束無さと、見えざる手が頬に触れ、底知れぬ恐怖に取り憑かれた人間の様は、暗闇の美を体現した彫像を感じさせる。どの話も心の深淵に潜む狂気と、怪奇が入混じり、あっという間にその世界に惹き込まれてしまう。ガラスの刃物が心臓を突き刺すぐらいの清廉さが、私にはあるようにしてならない。
2021/01/16
rinakko
読み残しがあったので、こちらから。表題作がすこぶる好み。読めて嬉しかったのは、「鏡のなかの貴婦人―映像」と「花よりもはかなく」。「羊歯」も忘れがたい。
2013/03/15
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