地図と領土 (単行本)
地図と領土 (単行本) / 感想・レビュー
ケイ
ウェルベック最新作。またいつもの性描写があるのかと心配するもこの作品では杞憂であったが、数ページほどの残虐なシーンが凄まじかった。この作品では主人公ジェドが出会う主要な作家にウェルベック自身が登場する。登場のさせ方が客観的とは言い難く、むしろ自虐的に過ぎるようだ。自分をそのように扱うことで、いつもながら起こる批判を回避したのだろうか。色々な政治思想やアートに対する彼の考え方がよく表れているが、私の知識が追いつかず、理解が不十分なままのものもあるので、しばらくしたら再読したい。
2014/09/30
どんぐり
「作家ミシェル・ウエルベック、惨殺される」と著者自らを登場させて描いた芸術家ジェド・マルタンの物語。これだけでも面白いのに、この小説には、絵画から文学、音楽、ル・コルビュジエの建築論、19世紀の社会改革者であるマルクスやフーリエ、さらには市場経済の信奉者であるビル・ゲイツとジョブズまで、芸術と資本の結びつきを論じた様々な言説が出てくるのが魅力だ。「われわれの芸術家としての立場は、商業的生産によって息の根を止められた職人仕事の最後の代表者なのだ」というウエルベックの言葉が印象深い。
2015/02/11
けい
アーティストであるジェドを主人公とし、ほぼ彼の一生を描く物語。作者自身も登場人物として描き、驚きの結末を迎える。一方ジャド自身は若い頃から才能にあふれ、彼の才能を世界が認め続け多くの富を得て成功者であり続ける。彼には成功者であるにもかかわらす傲慢さの欠片もなく、そして孤独であり続けていく。彼は果たして幸福だったのか、でも不幸じゃないよな、そんな思いで本を閉じました。筆者作品としてはかなり大人な作品との事、他作品も読んでみたいと思います。
2014/05/24
zirou1984
作者の死を唱えたのはフランスの批評家ブランショであったが、ウェルベックは本作において見事に自分自身を殺し切ることに成功した。無様なまでに性を追い求めた旧来の主人公と異なり、ジェドの生涯はもはやそうした過剰なコミュニケーション願望すら存在しない。彼の職業たる現代アートは物質と経済で塗り潰された20世紀後半における資本主義社会の仇花であり、関係性と貨幣との交換可能性は世界と個人を静かに切り離している。孤独と諦観が支え合いながら世界を明晰に論述する美しさを引き立たせる本作は、現代アートのその先を描き出している。
2014/07/02
キク
ウェルベックへの高い評価はあちこちで見かけていたけど、「現代フランスを代表する作家」という肩書にビビって今まで未読でした。おそるおそる読んでみたら、とても面白かった。架空の芸術家の孤独な生涯を描いているけれど、その作品群がマスプロ製品の写真、ミシュランの地図の大判写真(タイトルはここから)、各種産業の仕事振りを描いた絵画で、芸術性と商業性の関係、現代美術の在り方がとても丁寧に描写されている。読んでいて「快適な生活は比較的簡単に手に入るけど、幸福な生活は存在しない」と言われてる気がして、なかなかコワかった。
2021/02/24
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