クラウド・コレクター: 雲をつかむような話
クラウド・コレクター: 雲をつかむような話 / 感想・レビュー
ちはや@灯れ松明の火
胸を満たす想いも、瞳に映る景色も、いつかは忘れ去ってしまうのだろうか。永遠の彼方、何処よりも遠い場所へと旅に出る。ひい、ふう、みい、ただ数えるだけでいい。壜の中に眠る蒸留酒、物語を封じ込めた雲母、降りしきる雨に溶けた言葉。誰よりも遠い背中を追いかけて、辿る、廻る、そして戻る、虹の円環。涙は何を洗い流すのだろう。刻む時間は世界を塗りかえて、あふれ出す記憶は天へと還っていく。振り仰ぐ空に浮かぶ雲の中に、静謐な夜にかなでる音色の中に、見出だす失われた何か。愛おしいと思うのは、いつかこの中に在ったぬくもりだから。
2012/09/02
とよぽん
「雲、売ります」という何やら怪しい宣伝が興味をそそる。傳次郎さんの旅行鞄から出てきた雲をつかむような話にどんどん引き込まれ、最後の「あとがき」を読み終えて、お見事!と思った。「忘れる力、さかさまに降る雨、雲、そして壜」。悠にして深、不思議な世界に漂わせてくれる物語だった。
2020/11/21
とも
★★★★「雲をつかむような話し」という副題が付いているとおり、最後の最後までどういった話なのか判らない まさしく雲を掴んでいる。内容は、祖父のメモをもとに紛れ込んだアゾットという街。そこに区切られた21のエリアを祖父の足跡とともに番号順に順々に追っていくのであるが、兎に角 これぞ想像のとりとめもない物語。 ここまでくれば、もう内容が面白いとか面白くないとかのレベルではない。ただ言えることは、なんとも上品な空間が味わえる作品であるということ。ちなみに、この作品はハードカバーでのみ読む価値がある作品である。
2016/08/26
夏
「クラフト・エヴィング商會」を経営していた作者の祖父が作った「雲、賣ります」の広告から本は始まる。これは商會の倉庫から出てきたもので、これを皮切りに次々と謎の品々が出てくるが、それらは全て祖父の手作りで、祖父が創造した架空の国「アゾット」の品物という設定であることが明かされる。アゾットは全部で21地区あり、祖父のメモを参照しながら作者は祖父の描いたアゾットの物語をまとめ、アゾットの品物の写真などを付け加え、この本は完成した。どこまでが嘘でどこまでが真かわからない不可思議な世界観に漂わされる。
2020/11/16
そうたそ
★★☆☆☆ 文章だけでなく一冊の本トータルで作品を味わう、クラフト・エヴィング商會の真骨頂のような作品ではないかと思う。先代の手記を読み解くという形で、詳らかにされていく「アゾット」という国の姿。空想が縦横無尽に広がり、読者をさも現実にある国であるかのような錯覚に陥らせる。隅から隅まで本当によくできた一冊だな、と思う。クラフト・エヴィング商會の本づくりの姿勢には感服するばかり。ただその一方で彼らの空想世界についていけずに放っていかれたと思ってしまう部分も多少はあった。それでもまた読んでしまうんだよな……。
2014/04/15
感想・レビューをもっと見る