禁忌
禁忌 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
シーラッハの第2長編。光の3原色—すなわち緑、赤、青、そして最後はこれらすべてを混ぜ合わせた白—という凝った構成。ジッドの『狭き門』で半ば試みられた手法を一層に徹底したもの。もっとも、最後は白日のもとに明らかになったのかというと、そうでもあるような、ないような。そもそもそれ以外にも謎のままに残された部分は多い。巻末の「日本の読者のみなさんへ」にしても、良寛の句を引きつつ、やはりこれまた禅問答のようだ。そして、そこにこそシーラッハの奥深さがあるのだろう。これまでに読んだ法廷闘争とは大いに違った境地だ。
2017/08/29
starbro
フェルディナント・フォン・シーラッハ3作目です。ブラックホールのように暗くミステリアスな闇の中に、様々な色彩が吸い込まれて行くイメージの小説。精神疾患の人が銃で自殺する場合、大半が頭(脳)を打ち抜くという記述には納得感があります。今回は、独逸哲学的アートミステリーということでいかがでしょうか?日本で作品が好評なのか、日本びいきなのかわかりませんが、日本版オリジナルエッセイも興味深いものがあります。
2015/05/04
紅はこべ
今までのシーラッハとはちょっと毛色が違う。重要な事実が後半になるまで読者に隠されているので、本格ミステリではない。公判シーンでは、拷問の是非について最もページ数が割かれているが、それがメインテーマでもない。司法よりも、芸術について語る方が主眼だ。そういえば、この主人公は『地図と領土』の主人公にちょっと似ている。向こうも写真が芸術家としての出発点だったし。ラストのエッシュブルクとビーグラーとの会話に、芸術家ならではの傲慢を感じた。
2015/03/09
スパシーバ@日日是決戦
C (2015年)<2013年> 万物に人が知覚する以上の色彩を認識し、文字のひとつひとつにも色を感じる共感覚の持ち主である主人公は、ある罪で起訴され自供。依頼を受けた辣腕弁護士は..。芸術と人間の本質、そして法律の陥穽。芸術云々は武外漢なので何ら語るべき言葉なし。だが、真実はこれだ!と都合の良いように解釈し、人間の本質をつき主人公を揺さぶる警察と、厳格な手続きに基づく刑事裁判に関わる裁判官、検事、弁護士との攻防は果たして?(主人公に下された判決は××であった)。
2015/12/10
ケンイチミズバ
写真家としての才能が裸のマハと着衣のマハで頂点に達して以降様子がおかしくなるゼバスティアン。ジュースキントのパルファムの主人公は嗅覚の天才にして調香師で変態で作品のためなら殺人も厭いませんでした。この作品の主人公は視覚の天才にして写真家で幼少期の体験から精神的に危うく、けれどもそれは伏線でした。誘拐殺人事件を偽装してまで法廷で作品を披露します。真実とは、正義とは、騙されやすい人の思い込みや視野の狭い正義感を自らの作品で打ち砕いて見せました。それはマハを見た人の視点からの着想であり、読者も法廷も騙されます。
2016/07/06
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