流浪の月
流浪の月 / 感想・レビュー
ろくせい@やまもとかねよし
切ない物語。「事実と真実はちがう」が骨子。事実はそれ以上でも以下でもない。一方真実はその事実を捉える際、正悪や醜美など判断が付帯。つまり同じ事実でもその真実は十人十色のはず。しかし社会正義という無根拠な同調圧は歪んだ真実性を形成すると指摘。主人公たちは、社会不条理もあり、自虐的に、「己への嫌悪と羞恥と恐れ」に囚われる。しかし同時に孤独へ恐怖する。そんな彼らが発する肉体や実体を超えた利他的想いを「愛や恋愛では表せない好き」だと表す。人間は孤独だが、理性では解せない利他的調和を形成できると提案するのか。
2020/07/05
ヴェネツィア
ライトノベルからの飛躍を期した力作だと思うが、文体表現にその名残が見えるようだ。とりわけ、それは会話文に顕著であるように思われる。もっとも、ライトノベルを読んだことがないので、正確にはそんな気がすると言うべきか。ただ、セックスを一切介在させない更紗と文の関係性のあり方は、ライトノベルならではの良さとして機能しており、これが人気作であることも大いに首肯できる。なお、エンディングはこれでないと多くの読者は納得しないだろうが、私は「彼のはなし1」で終わった方が、より余韻を残したのではないかと思う。
2021/12/15
starbro
新型コロナウィルス対策購入シリーズ第62弾、6月の第一作は、本屋大賞受賞作『流浪の月』です。図書館の予約を待ちきれず、ようやく読めました。凪良 ゆう、2作目、本屋大賞的なほのぼのとした作品かと思いきや、半分ホラーのような異色のラブ・サスペンスの秀作でした。本屋大賞受賞も納得、これからも凪良 ゆうの新作を読みたいと思います。 https://special.tsogen.co.jp/rurounotsuki
2020/06/01
sayuri
自分の拙い文章で言い表す事が出来ないくらい心に響いた。本を読んでいると、ごく稀に胸中の琴線に触れ、心の深い部分まで沁み込んで来る作品に出逢う事があるが久々にその感覚を味わえた。『事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められる気がしない』悲しい事に憶測や偏見で人を判断する人間は、そこら中に存在する。昔から道聴塗説を鵜呑みにする人が苦手だ。言葉にした事だけが真実とも限らない。文と更紗、二人の生き方が不器用でもどかしく胸が締め付けられる。本当に本当の事なんて本人にしかわからないのに。
2019/10/19
ウッディ
居場所のない少女と大学生、幼女誘拐事件として被害者と加害者になる更紗と文。けれど、その時一緒にいることで、二人は確かに自由で幸せだった。「何も言わなくても、大丈夫だから」善意というおせっかいで本当のことを解ってもらえないもどかしさ、被害を受けていないのに、被害者と加害者として、好奇の目に晒され続ける理不尽さが、読んでいてもどかしく辛かった。常識の枠から少し外れた愛かもしれないが、更紗と文を結び付けていたのは確かに愛だったと思う。やっと読めた本屋大賞の本作は、自分の心の奥に何かを刻んだ一冊になりました。
2020/08/16
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