裏切りの塔 (創元推理文庫 M チ)
裏切りの塔 (創元推理文庫 M チ) / 感想・レビュー
Kircheis
★★★☆☆ 『高慢の樹』は、伝承と地主の失踪を絡めた中編。犯人と予想される人物は二転三転するが、最後には驚きの真相とその理由が明かされる。チェスタトンらしい逆説と寓意にあふれた作品で非常に楽しめた。 『煙の庭』は、文体や表現は好きなんだが、真相がありきたりで印象には残らず。 『剣の五』は若い男の死が決闘によるものか否かを探る話。とにかくラストが美しく、涙が出そうになった。 表題作は、難解な表現や逆説が多用され読むのに苦労したが、オチは単純だった。悲劇的で美しい結末だが、犯人の動機面でやや不満が残る。
2021/12/30
Tetchy
東京創元社独自で編まれたチェスタトンの短編集でまさにコレクターズアイテムとも云うべきディープな内容。この作者は謎のヒントを実に上手く物語に散りばめているが、最初に読んだだけでは煙に巻かれたかのように頭に入らないのだが、読み返すことで手掛かりが判り、本来の物語が見えてくる。チェスタトン作品を十二分に堪能するには二度読み必須であることを再度感じた。しかしこの21世紀も20年以上過ぎて古典ミステリを新訳で刊行する同社の出版スピリットには頭が下がる。出版業は文化事業だと云われるがまさにそれ。実に素晴らしい。
2022/05/19
geshi
自分にはチェスタトンは合わないなぁと感じつつも、エッセンスは受け取れた。『高慢の樹』奇怪な発端から意外な展開があり一番エンタメなストーリー。トリックの先にある動機に持って回った文章も家庭もすべてが繋がる。『煙の庭』雰囲気作りはいいけど真相がありきたり。『剣の五』ミステリとして決着したかったのか騎士道にしたかったのか。『裏切りの塔』ブラウン神父ものでは削られたものが濃厚に味わえる。『魔術』解決がアンチミステリっぽくてチェスタトンは本当にミステリを書きたかったのか?と思ってしまう。
2022/02/24
星落秋風五丈原
「高慢な樹」イギリスで教育を受けたアイルランド人の大地主ヴェインの土地には、人を食う樹としておそれられる三又の樹があった。庭師は不吉な樹だから切ってしまうよう進言するが、ヴェインは迷信だと言ってはねのける。彼に招かれたイタリアに住むアメリカ人批評家シブリアン・ペインター氏は、アフリカの話として樹に関する伝説を披露。地元民の迷信に悩まされたヴェインは、樹に上る賭けをする。ホラーもの?と思わせて人間消失ミステリになっている『高慢の樹』。しかし著者が本当に言いたかったことは人間の矛盾に満ちた思考である。
2021/06/24
SIGERU
本邦初訳の戯曲『魔術』(1913年)を大看板にした、日本オリジナルの短篇集。他には、短篇集『知りすぎた男』(1922年)から、ホーン・フィッシャー物以外の四篇が採られている。『魔術』は、三幕の喜劇。ロンドンの小劇場で初演された。信仰と懐疑、奇蹟について登場人物たちが論を戦わせる展開は、チェスタトンの独壇場。「信仰と同じように、懐疑も狂気であり得る」「サンタクロースを疑う子供は眠れません。信じる子供は一晩ぐっすり休みます」。皮肉と逆説に充ちた台詞の丁々発止に、レトリックの冴えが遺憾なく発揮された逸品。
2022/03/08
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