荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)
荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書の出版は2002年なのだが、物語の時は19世紀であり、まさにディケンズのロンドンを彷彿とさせる時代である。文体(これは翻訳なので何とも言えないが)、叙述の積み重ね方、構成ともにあえて19世紀的なスタイルをとっている。最初のロンドンの処刑場を間近にするあたりは殊にそうしたムードを醸成する。また、丁寧に描くと言えばそうだが、まだるっこしいばかりの描写の執拗さも19世紀的である。さらには、第1部と第2部は同じ時間を語りなおすという念の入れようだ。その一方で、第1部の末尾の急展開にはもう感嘆するばかりだ。
2019/10/12
遥かなる想い
このミス海外2005年第1位。 圧巻の面白さだった。 サラ・ウォーターズが 織り成す策謀と裏切りの 世界はなぜか妖しく、心がざわめく。 孤児スウが持ちかけられた 詐欺の計画…秘密と企みが 交差する世界… モード令嬢を誘惑しようと する〈紳士〉とそれを 助けるスウ。 読者をミスリードさせる 巧みな筆致と、全編に 立ち込める妖艶な世界は 読書の楽しみを満喫させて くれるが…この世界、どう 展開させるのか、下巻が 楽しみな物語だった。
2015/08/16
青蓮
19世紀半ばのロンドンが舞台。下町に住む掏摸を生業にしている少女・スウはある日、紳士と呼んでいる男から詐欺計画を持ちかけられる。それは孤城に住む令嬢を誑かして財産を騙し取るというものだった。スウは令嬢の侍女として孤城へ乗り込むーースウもモードも、養育過程が切なすぎる。特にモードは哀れだ。騙し騙され合う関係だったのに気がつけば二人の間に芽生える恋心。けれどもそれは決して明かせない秘密の感情。スウは金のために、モードは自由のために相手を欺かなければならないから。彼女達とリチャードに待ち受けている未来は果たして
2018/01/23
のっち♬
舞台はヴィクトリア朝ロンドン。スリの一家の娘スウは詐欺師仲間から持ちかけられた令嬢モードの財産奪取計画に加担し、侍女として城に潜入する。下町や田舎の城の様子が仔細に描かれており、時代がかった言い回しもあって19世紀ゴシックロマンに通じる薄暗い雰囲気が特徴的。スウとモードによる語りを交錯させる構成によって、一つの事実がそれぞれ異なる意味あいを生み出していく過程が何よりの魅力だ。とりわけ第一部は最後の一行に至るまでしっかり読者を惹きつける驚愕の展開が仕掛けられている。恋愛心理もレズビアンの著者ならではのもの。
2018/04/06
扉のこちら側
2016年159冊め。【140-1/G1000】著者がいいのか訳者がいいのか、好みの文体でヴィクトリア朝の陰謀に劇に引き込まれる。第1章の結末に驚愕し、第2章では別視点で見る物語で、騙す騙されるの交錯する思惑が実に面白い。トランプのハートの2のシーンと、スウが文盲であることをモードが知るシーンが印象的。モードは読み書きができるが故に不幸だったから。「ただ驚いていた。読むことができない!それは、素晴らしい欠落に思えた ― 殉教者や聖人が、痛みを感じることができないように。」下巻へ
2016/03/07
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