エアーズ家の没落下 (創元推理文庫)
エアーズ家の没落下 (創元推理文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
再読してわかるのはウィリアム・トレヴァー氏の傑作、『マチルダのイングランド』にも共通する、美化された過去に囚われる主人公の身勝手さ。特に自分の腕を新聞紙で洗うしかなかったキャサリンに「女中と同じことをするな」と叱る場面で「この男は館だけが大事でキャサリン自身の気持ちはどうでもよかったんだ」と悟りました。誰もいなくなってしまった館に何度も入り、エアーズ家の人々に迎えられることを待つ彼に彼らは現れないだろう。なぜなら自ら、過去に縛られて未来を見ない彼はもう、既に生きながらにして禍をもたらした亡霊そのものだから
2015/08/24
yumiha
次々と不幸が襲いかかる下巻。しかもただの不幸ではなくてホラー色がだんだん色濃くなってきたので、就寝前読書は止めようかと迷った(怖がりなので)。まるで館そのものがエアーズ家の末裔を憎んで滅ぼそうとしているかのような、ベティの言う「幽霊屋敷」のような怖ろしい場面が続く。キャロラインが叫んだ「あなた」は、誰だったのか?実在したのか?キャロラインの妄想か?と考えながら解説を読めば、もしや⁉ミステリーだったん?と驚いた。エアーズ家を憧れながら憎んでいたファラデー医師が信頼できない語り手だとすれば、景色は全く違う。
2023/11/16
藤月はな(灯れ松明の火)
没落したと言えどもエアーズ家の人々は館の虜囚。一生、そこからは逃れられない。語り手もまた、合理的に考えながらも屋敷のかつての栄光と現在の凋落に魅入られているので彼らを救うことはできなかったにすぎない。結局、館に潜んでいた「何か」はよく、分からないがひねくれ者としては作品の幻想的且つ夢幻の雰囲気を無粋な合理的論理で壊さない結末に拍手を送りたいです。
2011/03/01
ネムル
ある一家とお屋敷の盛衰をエピローグ含め長いスパンで描くと、信頼出来ない語り手の妙味が増すな、と改めて感じた。その語りがいつに身をおいて語られているのかを考えると、なにゆえ信頼出来ないのか、小説が少し形を変える。不穏な傑作。
2019/08/06
星落秋風五丈原
怪異現象を起こさせた原因が、それぞれの人物の中にある精神的脆さだけではなく、意志を持たないはずの館であるとすれば、作中人物が口にしたように「館はわたしたちの弱点を突いてくる」という言葉が信憑性を帯びてくる。逃げられた人と逃げられなかった人との差はどこにあるのか。一連の事件の真相と同じく、犠牲者とそうでない人との選別基準も曖昧なままに幕を閉じるので、いつまでも霧の中を歩いているような気分にさせられる。その中に突然、このような館が現れたらどうしようかという不安に駆られながら。
2014/07/21
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