千尋の闇 上 (創元推理文庫 M コ 6-1)
千尋の闇 上 (創元推理文庫 M コ 6-1) / 感想・レビュー
のっち♬
元歴史教師のマーチンは旅先での依頼により、20世紀初頭の英国政治家ストラフォードの失脚の謎を追っていく。全体の四分の一を占めるのはストラフォードによる回顧録で、第一次対戦前の内閣の駆け引きに婦人参政権運動家エリザベスとの多難な恋愛が絡み合い、これだけでも充実した読み物になっている。妖艶な歴史研究家にあっさり手玉に取られるマーチンの醜態ぶりはストラフォードらの純愛劇と好対照。現在と過去、史実と虚構を巧みに織り交ぜたプロットの精妙さに加えて、ミステリーと人間ドラマのバランス感覚も処女作とは思えないクオリティ。
2018/03/06
遥かなる想い
物語りの底に潜む人間の悪意・偽りのようなものと、エリザベスに代表されるいさぎよさのようなものが、過去をたどりながら、見事に万華鏡のように 浮かび上がってくる作者の筆力には感服した。ロバート・ゴダードを語る時に、「天性のストーリーテラー」という表現がよく使われるが、二重・三重の物語りの変遷には、まさにその力量・センスを感じる。チャーチルやロイドと絡ませながら、一編の回顧録と生き残る人々の語らいから、過去の謎を・過去の真実を焙り出していくプロット自体が素晴らしい。
2010/06/06
白玉あずき
処女作というのは、作者の後に続く作品の総ての要素が詰まっているらしい(どこで読んだか忘れました、すいません。)。ゴダードは三作目なのだが、なるほど犯罪がらみの歴史の真相究明、冤罪の悲劇と正義が果たされるカタルシスが待ち受けている気配がムンムン。さあ二重三重の構成の妙味を味わいつつ、悪を懲らしめてすっきりしよう。語り手の感情移入させてくれないふがいなさと欠点は置いといて、美質満載のエリザベスの息子があんなチンピラなんて、そこがまず変。それと依頼主セリックが怪しすぎ。
2016/05/05
アプネア
元歴史教師は、悪友からの誘いに乗じポルトガル領マデイラ島への旅に出る。そこで友人のパトロンから、半世紀以上前のある青年政治家に纏わる逸話を聞かされるのだが・・・。海外翻訳小説ってこんなに面白いのかと、門戸を広げてくれた作品です。内容はおぼろ気にあって、面白かったという記憶しかない。でも、なんでエリザベスは、エドウィンをスパッと介錯しないで、宙ぶらりんにするのか。結構ヤキモキさせる展開です。下巻へ。
2023/02/12
のざきち
チャーチルらと共に、若くして大臣に登用されたストラフォード。何故大臣の座を追われ婚約者も彼の元を去った?謎の解明を託された元歴史教師のマーチンは、パトロンの期待通りにこの歴史の闇に光を当てることができるのか...序盤は中々作品の世界に入り込めませんでしたが、個性的な登場人物たちが生き生きと描かれてどんどん先が楽しみになりました。下巻もこのまま一気読みです。
2020/08/07
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