立春大吉 (大坪砂男全集1) (創元推理文庫)
立春大吉 (大坪砂男全集1) (創元推理文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
「三時十三分午前二時」は人間の呪詛を込めた傲慢と人の切なる願いが重なり合ってしまったという真実が本当に遣る瀬無いです。「涅槃雪」は主人公の容赦なさすぎる糾弾に「正義感気取りの思い上がりの愚か者が!」と心底、殴り掛かりたかったです。「検事調書」も証言がころころ、変わりやすい容疑者に検事と一緒に苛々させられましたが思いの斟酌の仕方が異なっていたことで起こった悲劇にただただ、哀れさすらも覚えます。「幽霊はお人好し」の自殺しようとする気持ちから生まれた自殺後の過去である幽玄体で男気溢れる夏川君が結構、好きです^^
2013/05/31
ぐうぐう
1972年、薔薇十字社から澁澤龍彦と都筑道夫の共編により刊行された『大坪砂男全集』に、未収録だった作品やエッセイ、大坪砂男について書いた諸家達の文章を追加した、いわば全集の決定版。第1巻には本格推理ものが収録されている。とはいえ、本格の型に収まらない、凝りに凝った語り口は、奇想に溢れ、驚きに満ちている。「黒子」のメタ構造など、挑戦的で野心的な作品ばかりだ。大坪砂男が「天狗」一編だけの作家ではないことを、この全集は1巻の時点で、すでに知らしめている。
2013/03/14
YO)))
モードのある探偵小説.寧ろあり過ぎるくらいで,地の文からして相当に濃縮・洗練され,状況説明を越えた情緒を過分に湛えたもので,事件の解決によって溜飲が下がる,以上に,蟠りじみた割り切れなさやるせなさが心に残る.特に「立春大吉」「涅槃雪」では存分に蟠った.鑑識課の技師,緒方三郎を探偵役に据えた巻頭の四編は,比較的フォーマットが整っていて読みやすくはある(が,『犯罪学者にとって真相とは―これは永遠の十字架なんだ』と,探偵自ら探偵小説に疑問を呈するような台詞が出てきたりも).奇想&時代編の二巻にも大いに期待.
2013/02/11
シガー&シュガー
警視庁鑑識課技師・緒方三郎シリーズを含む短編集。大変読み応えがありました。タイトルの作品よりも印象に残った「涅槃雪」、解説によるとやはり名作らしく、雪の果て(涅槃雪)がちらつく山寺を舞台に、戦争によって浮き彫りになった三角関係の悲劇的な終わり。その描写の鮮やかな暗さが忘れられません。大坪が描写に悩み苦しんだ跡が実を結んでいます。終戦直後の煮詰まった人生の重みが犯罪そのものよりも重く伝わる話が多く、軽く読み流せる推理小説ではありませんでした。また解説もどれも素晴らしく大坪その人にも興味が湧きました。
2016/07/29
はちくま
描かれた風物には時代を感じるし、時代を超えた大傑作かどうかはわからないけど、面白かった。特に前半の緒方三郎もの。「幽霊はお人好し」もバカバカしくて良かった。本格推理編だというのでこの巻を読んだのだけど、他の巻も読んでみようかな。
2014/11/24
感想・レビューをもっと見る