天狗 (大坪砂男全集2) (創元推理文庫)
天狗 (大坪砂男全集2) (創元推理文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
大坪砂夫作品で突飛すぎる「天狗」。た、確かにストーカー男の妄執が上手くいきすぎる辺り、突飛すぎる!「虚影」と「花束」は読後のエゴと虚しさが哀しいです。一番、好きなのは奇想ミステリー編じゃなくて時代物です。「河童寺」、「春情狸噺」はエロティックなユーモアと眩惑性があります。戦国時代における武将暗殺を遂行する白瀬弥二郎や仲介の霧隠歳三のシリーズ物がとても好きです。特に謙信暗殺計画が絡む「霧隠才蔵」での北条が末っ子で謙信の養子となった上杉三郎景虎の腹黒さに別作品でのイメージ刷り込みが強い私には衝撃的でした(笑)
2013/06/18
ソングライン
田舎の温泉宿を舞台に理不尽な動機、奇想天外な殺人方法に心奪われる「天狗」、戦争で傷ついた恋人を崖から突き落とした女の心情が切ない「花束」、彫刻家とモデルの夫人の関係にはっとさせられる「髯の美について」等、戦後の日本を舞台にした奇想編と猿飛佐助に死してものりうつる信玄を討った男白瀬弥次郎の執念を描く「密偵の顔」が印象にのこる時代編、深夜に読みたい短編集でした。
2022/02/14
ぐうぐう
全集第1巻のレビューで、大坪砂男は「天狗」だけの作家ではなかったと書いたわけだが、いざ第2巻で「天狗」を改めて読み返してみると、やはりこの作品は特別だとの思いが強く感じられた。大坪砂男にとってだけではない。日本のミステリにとっても、「天狗」は特別な存在として屹立している。その奇想、その偏執、そのただらなぬ気配、それでいて、文学としての堂々たる文体が、「天狗」を唯一絶対のミステリの頂へと登らせている。読むたびに余韻が深まる。長引く。絡まる。読み終わると、誰かに問わずにはおれなくなる。(つづく)
2013/08/23
unknown
表題作はなるほど今なお色褪せぬ奇想ミステリ。主人公の偏執的言動、周到な計画の上での破天荒なトリック、何もかもが異様であり、そのただならなさに戸惑いを覚えながらも惹きこまれてしまう。私を蔑った彼女は公衆の批判を受けるべきだしその命は奪われねばならないしブルーマースを穿った下肢は白日の下に晒されねばならない、と、主人公が方程式を絡めて己の思考を立て板に水のように吐き出すくだりが忘れようにも忘れられない。
2013/10/04
qoop
ロマンチックな掌編〈盲妹〉、都市のダークサイドを迷宮仕立てで書いたような〈花束〉、荒唐無稽さを強引に煙に巻いた大人の講談〈密偵の顔〉、鮮烈なイメージが連続する〈野武士出陣〉など、どれも短いながら読み応えがあって良い。が、やはり表題作に止めをさす。俗なモチーフが突飛で超俗な殺人へと昇華するさまは、シュルレアリスム作品のよう。マグリットやダリのようなイメージが思い浮かぶ。冒頭数行の強烈さ、一人称の件などもインパクトあり。
2013/04/18
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