鳥少年 (創元推理文庫)
鳥少年 (創元推理文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1970~80年代に書かれたもので、単行本に未収録の作品を集めた短篇集。この時期の皆川は小説誌からの依頼と自分がほんとうに書きたいものとのギャップに悩んでいたらしい。そうすると、この作品集に収録されたものは案外にも皆川が書きたかったもの、あるいは少なくても書きたいように書いた作品なのではないだろうか。ここには様々な題材、スタイルがあるが、比較的共通するのは、末尾の一文の後に、あえて書かれなかった真の怖さが存在することである。もちろん、その一文は暗示に留まるのではなく、強くそのことを示唆している。
2024/08/17
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
少年が箱庭の絵の中に幽閉されるとき ラポールは既に『皆』断切れ 鳥は卵の罅割れに喝采を贈る。 沼『川』で鏡面に背の刺青を反映する蝶の群れ。 黒魔女は『博』覧会の椅子を括り付け 聖夜に滝の血を浴びる。 『子』は姫と孕んだ針千本の誓いを破った廉で 坩堝に火焔の緑譜を刻む。 蟠る絡繰りを“創元”に“推理”する 琵琶湖の綺創天蓋で。 ☆4.0
2021/01/24
藤月はな(灯れ松明の火)
長らく、文庫化されなかった皆川博子作品が単行本未収録作も含めて待望の文庫化。『火炎樹の下で』、『卵』、『血浴み』、『密室遊戯』、『魔女』、『緑金譜』が好きです。特に『密室遊戯』は『倒立する塔の殺人』でも紹介されたアンリ・バルビュスの『地獄』が、『魔女』は源氏物語の六条御息所が念頭に置かれている感じがします。書下ろし作品は『泣く椅子』での永子の「あなたのために思っているから我慢しているのよ。だから感謝しなさい」という意志が透けて見える自己犠牲に吐き気がします。その分、ラストでは溜飲が下がりました(黒笑)
2013/10/23
Rin
不思議な妖艶な雰囲気の漂う短編集。独特の世界観だし、人間の一言では言い表せない心の深い欲望や願望もにじみ出ている気がする。自分で考えている自分と、他人の眼を通した自分は違うもの。そして、自分ですらわかっていない部分を曝け出しているような物語もあって、なかなか飲み込むことができない本だった。執念や執着、自己暗示にもにた行動が恐ろしくも、最後は少し哀しさも漂っている。どの短編も妖しさを漂わせながらも、それぞれが違う恐ろしさを纏っているのがさすが。独特の世界に好みは分かれるだろう作品ですが、読めてよかったです。
2016/07/19
seri
心地よい酩酊。路地裏の古びた骨董店に並んだいわくありげな品々のいわれを一つ一つ知っていくような16篇。妬み、怨み、狂気、妖しく、そして美しく。各話毎に背筋に走る悪寒。けれど妖艶さに魅せられて、ページを繰る手を止められない。倦怠が狂気を生む。愛欲はいつも哀しみを孕み、寂しさは眼裏に空洞の闇を見る。その空洞の中の幻想が文字に彩られて、躍る。気が付けば文字に絡め取られて酩酊し、逃れられない。ずっと気になっていた皆川さん初読でした。この退廃的な幻想、アンティークのような独特の雰囲気はたまらなく癖になります。
2015/12/15
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