オーブランの少女 (創元推理文庫)
オーブランの少女 (創元推理文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
デビュー作「オーブランの少女」を含む、深緑野分の第1作品集。5つの短篇を収録。表題作、「仮面」、「大雨とトマト」、「片想い」、「氷の皇国」のそれぞれは、第2次大戦中のフランス、20世紀初頭のロンドン、現代の東京の片隅、戦前の高等女学校、時代不明の北の皇国が物語の舞台に選ばれている。この人は、こうして物語に一定の枠組みを持つ「世界」を設定することで、かえって自由に語っていくのを得意とするタイプの作家であるようだ。そして、その特性は、この後の『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』に活かされてゆく。
2022/07/18
Tetchy
洋の東西を問わず、現代から近代・中世まで材に取りながらも、まるで目の前にその光景が、更には色とりどりの花木や悪臭などまでが匂い立つような描写力は実に秀逸。プロットは正直単純だが作者の目くるめくイマジネーションの奔流に巻き込まれ、濃密な時間に浸れる。それはまるで作者がしたり顔で杖を振るって微笑みながら見せてくれるイリュージョンのようだ。物語の強さにミステリの謎の強さが釣り合っていないが、私は寧ろミステリとして読まず、作者が語る夜話として読んだ。この作者には物語の妙味として謎をまぶした作品を今後も期待したい。
2017/05/05
ナルピーチ
少女をテーマに描いた哀愁漂う5話の短編集。本作が著者のデビュー作であるとの事だがその出来映えと読み応えにとても満足できた一冊だ。特に各話ごとにまったく異なる世界観と時代背景で描かれた作風はそのクオリティの高さを物語っている。表題作である『オーブランの少女』そして最終話『氷の皇国』は単体の作品としてもその完成度の高さが伺える。そして前述した二作とはテイストが違う『片思い』も個人的には好みの1話。これを機に著者長編作品も読んで見たくなった!
2021/03/31
黒瀬
時代や国が違う五篇からなる短編集。巻末の【氷の皇国】は米澤穂信さんの【折れた竜骨】を彷彿とさせるような世界観で夢中になって読み耽りました。表題作との共通事項は冒頭でちょっとした事件が起こり、その背景に大変なドラマがあったことが明かされる形式であるということ。どうやって冒頭の結末を迎えるのだろう、大昔に何があったのだろうという叙事詩としても楽しめる逸品。特別カバー版で表紙を飾った環=〇〇が登場する【片想い】も好き。エスやお姉様など、昭和初期の独自の文化で結ばれた蠱惑的な共犯関係は戦火の炎をも跳ね除けるだろう
2021/02/02
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
私はあの頃楽園を信じきれなくて美しいものを集めてはいつか失望すること(されること)を恐れて過分に残酷になれた。とりどりの花の名前は知らなくて鮮やかな色あいだけを記憶。光に満ちた楽園がいつか終わると知っていたなら別の選択もできたろうか、悔恨は甘酸っぱく輝くsouvenir。いつまでも浸ることが今のよろこび。硝子細工は隅々まで灯りを届けるから嫌いです。隠してよ醜いものなど嘲笑って。幸せなどいくらでも手に入れることができると傲慢に笑んだあの頃の私は(貴女は)美しかった。今は美しい灯りも素直に好きと言えるのです。
2021/01/10
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