胸の火は消えず (創元推理文庫)
胸の火は消えず (創元推理文庫) / 感想・レビュー
HANA
古式ゆかしい怪奇小説集。超自然現象や幽霊は現れるものの、後の世の作品みたいにそちらが主になっているのではなく、人間関係が主であり幽霊はその延長線上に現れるような印象を受けた。それでも愛欲の地獄を描く表題作はラストがひたすら恐ろしいし、「仲介者」の幽霊とその目的も哀切極まって実にいい。逆に「死者が知っていたら」、「被害者」等はちょっと捻りが無いように思えた。しかし全体を通してみると、夫婦間や男女の関係が根となる作品が多いな。誰もが避け得ず誰もが通る道だから、ひたすら生々しく思えるのだろうか。
2014/04/27
藤月はな(灯れ松明の火)
能の蛇や般若、小泉八雲の『死後の約束』のように女性のしっとりとして実は凄まじい力を持つ情念を描いた短篇集。イギリスの怪談小説は日本のものと似ていますね。不実な不倫相手と死後、永遠に情欲地獄を輪廻することになる表題作に心底、慄きました。アガサ・クリスティの『最後の降霊会』の結末に反する様な超自然による勝利を描いた『水晶の瑕』は葵を祟り殺した六条御息所に被ります。『被害者』も冷酷な殺し方よりも雇い主の幽霊が告げたことが真実であることが一番、怖い。罰はそんなものなのだろう。『希望荘』は全然、希望じゃない・・・
2014/05/30
かわうそ
登場する幽霊たちは超自然的な存在でありながら現実と地続きの存在として描かれていて、震えるような恐怖というよりは静かな哀しみや不気味さを感じさせる。クラシカルな印象の作品が多い中で、冒頭の表題作は見たことのないような展開でなかなかに嫌な地獄を描く傑作。その他「水晶の瑕」「希望荘」などが好み。
2015/11/04
くさてる
1920年代に活躍した作家の幽霊譚が中心の短編集。こういう古式ゆかしいタイプの作品群には簡単に“ホラー”と呼ぶのを躊躇わされるものがあります。100年近く前の作品とは思えないほど描かれている人間心理には納得いくものがあり、抑制された描写も静謐な怖さを秘めていて、お好きな人にはたまらないタイプの作品だと思いました。超自然的な観念のイメージが惹きこまれる「水晶の瑕」単なる幽霊譚とは一線を画す切れ味の「被害者」読み応えある「仲介者」短いながらもいちばん怖く想像が膨らむ「希望荘」などがとくに良かったです。
2014/04/23
歩月るな
シンクレアの怪談短編集から『天国』を除く全作品を南條竹則が訳出した傑作短編。その一作は一年前に『怪談の悦び』で読んでいますが、「頭が良い人じゃないと絶対書けない奴だ」っていう軽妙な堅苦しいロジックがあります。著者はと言えば、ドイツ語、フランス語、ギリシア語、ラテン語を独学しプラトン、カント、ヘーゲルなどに通暁し、翻訳なども行いながら筆一本で生計を立てたヴィクトリア朝人ながら異質な才媛である。要するに、怪談一つとっても生々しいロジックがあり訳者の語る通り「理想化されない男性像」や「女性心理」に説得力がある。
2016/10/26
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