キネマトグラフィカ (創元文芸文庫 LA ふ 1-1)
キネマトグラフィカ (創元文芸文庫 LA ふ 1-1) / 感想・レビュー
ふじさん
老舗映画会社・銀都活劇に入社した同期の6人の男女が、地方映画館・桂田オデオンの閉館日に合わせて再会を果たす。懐かしい映画を鑑賞しながら、26年前のフイルムリレーに思いを馳せる。一話ずつ語られる、一人ひとりの生き方や仕事に懸ける思い、思い通りに行かず苛立ちや無力感の苛まれる姿の描写が秀逸だ。特に、初の女性セールスとなった北野咲子、結婚退職が目標の小林留美、親のコネで入社した帰国子女の小笠原麗羅の存在がいい。3人のタイプの異なる女性が根強い偏見や矛盾等、社会通念に贖いながら強く生きる姿に心を動かされた。
2023/06/12
みかん🍊
新刊だと思って予約したが単行本で既読済みの文庫化だった、改めて読んでみるとすっかり忘れていたが続編が出ているみたいなのでちょうど復習となった、30年前の老舗映画会社で同期の6人、当時は女性が働くという事が当たり前でなかった、現代でさえまだ男女差別や働き方、女性蔑視はあるのに当時男性に負けじと戦ってきた咲子には胸が痛くなる、同性社員でさえ冷ややかでがむしゃらに頑張っても結果を出す事は難しく結局は女性は家庭に入る事が望まれる、働く女性は今でもしんどいが、辛い思いをしてきたから今がある無駄な苦労ではない。
2022/04/25
佐島楓
30年も前から映画が斜陽産業だったこと、フィクションとは断ってあるが著者の実体験も混じっているであろう業界の裏側に驚く。また、男女6人の青春ものでもあり、それぞれの抱えてきた事情を感じ取り、人は見かけだけではわからぬものだという思いを強くする。また、ときどき挟まれるどきっとする展開やセリフが眩しく、物語を彩る魅力となっている。仕事を続けるということのつらさ、大変さ、そのなかでの発見、ひととの出会い。最近読んだなかでも、特に素敵な本だった。
2022/04/05
エドワード
群馬県の老舗映画館の閉館日。平成元年に大手映画会社に入社した個性的な男女6人が同期会に集まる。彼らの若き時代にタイムスリップしてみよう。斜陽化する映画に問題意識もなく旧態依然としている会社。女性はクリスマスケーキと呼ばれ、お茶くみは業務だ。そんな時代だったね。6人の心模様が交差する構成が見事だ。映画オタクの水島の映画業界への幻滅、全てに全力投球の<業界初の女性セールス>北野の葛藤が印象に残る。随所に描かれる、娯楽であり芸術である映画産業の難しさは音楽や出版業界にも通じる。2018年の幸福な同期会に乾杯だ。
2022/05/13
のんちゃん
平成元年に銀都活劇に入社した新卒同期男女6人は2018年、ある地方映画館で再会し1992年のとある大掛かりな仕事を回想していた。その時、入社から数年後の彼らはそれぞれに壁にぶち当たっていた。そして、さらに月日は流れ、あの頃思い描いた自分に今はなれたのだろうか?と皆、自問する。平成という時代もざっくり振り返ることのできる本書、古い時代と新しい時代の過渡期だった30年。大矢博子さんの解説に涙してしまった。苦労も悪い事ではなく楽しいこともあったし、その時間は確実に今の自分を作ってきた、それが答えなのだと思う。
2023/05/24
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