探偵小説の論理学
探偵小説の論理学 / 感想・レビュー
田氏
ミステリはほぼ読んでいない。なのに読みたい本リストに入れていたのは、本の紹介に添えられた「なぜ自分らにどれが真理かそうでないかを振り分けられる権限があると信じられるのか」という言説が気になったからだと思う。探偵小説の探偵は、作中の論理において真理を選別する権限を与えられ、作者と読者の間で真理の共有をとりもつ役割である。いや、あった。その関係の21世紀以降の変容を、著者は形式論理から様相論理への変容に照らして解読を試みる。かつての論理からすれば真理性の欠落でも、様相論理においては真理の拡張なのかもしれない。
2020/06/19
bitotakeshi
ラッセル論理学とエラリー・クイーンの作品群を結びつけた実験的な評論。ラッセル論理学についての説明的な記述はあるものの、やはり難解。クイーンは相当程度ラッセルを意識していたというのがわかれば充分だろう。本書で最も興味深いのは、時代の流れに伴う価値観や倫理観の変化により、昨今の探偵小説には正気の枠囲いがなくなっているという主張だ。つまり作品そのものが混沌としており、そのため作中の謎の部分の強度が弱まるなどの弊害が出ているが、パラレルな可能世界の拡大というSF的な解釈もできるということだ。
2017/10/31
naoya_fujita
論理学の部分が圧倒的。論理学と探偵小説の違いから探偵小説の公理を出し、「ロゴスコード」という概念を誕生させ、21世紀ミステリにおけるロゴスコードの変容を論じる。一冊で三度美味しい探偵小説評論の傑作。濃厚です。
2010/04/21
quantumspin
法月『初期クイーン論』によれば、探偵小説における手掛りは、形式主義における公理系に例えられるとあるが、この例えは的を射ているように感じられる。しかしながら、本書で述べられる探偵小説の公理系とは、法月の言うそれとは全く異なり、恐らくは20則や十戒と同類の、探偵小説の設計規範をイメージしていると思われる。本書において、第n公理のエッジラインと呼ばれている作品とは、設計規範を逸脱しかけたギリギリの作品と読みかえられる。20則や十戒と同類の設計規範に対して、小森があえて公理系という専門用語を使用した理由は謎である
2014/11/29
kaz
法月綸太郎や飯城勇三の推理小説論は、論理学に依拠している部分が大きいが、本書は、既出の諸論の不適切な点を指摘し、論理学を厳密に推理小説論に適用している。哲学、論理学のテキストとしても読めるようにということで、論理学の部分にも大幅にページが割かれているが、少しやりすぎの感がなきにしもあらずで、ラッセル論理学についての知識がないこともあって、面白さという面では多少後退しているように感じた。時代に応じて合理的の内容が変わること(ロゴスコードの変容)と最近の脱格の評論部分は、分析の余地があり、続編が期待される。
2014/01/09
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