溶ける街透ける路
溶ける街透ける路 / 感想・レビュー
どんぐり
ドイツ語でも作品を書くベルリン在住の作家多和田葉子さん。23年暮らしたというハンブルグ、すり鉢状の町シュトットガルト、巨大な大聖堂が駅に身を寄せて聳え立つケルン、三国にまたがる駅があるバーゼル、死の工場とよばれたアウシュヴィッツ、作家エミリー・ディキンスンが生涯を過ごしたアマストなど、2005年の春から2006年末にかけて訪れた48の町のお話。「創造的な活動は解釈不可能なことに耳を傾けるところから始まる。それができなければ世界は広がらない」と町から町へ思索を重ねる好エッセイ。1篇が4頁と短くて読みやすい。
2017/12/06
kana
デュイスブルク、トゥールーズ、クラクフ、トロムセ…数々の文学賞を受賞する純文学作家の多和田葉子氏が1年で巡った欧米諸国の街々の、手触り感のある風景を綴ったエッセイ。著者がこれほど世界規模で活動し、各地の文学に関する催しに呼ばれていることにまず驚く。著者の美しい言葉だけで描かれる街はファンタジーのように幻想的で、うっとりする。たとえば、フランクフルトは月面に作られたような都市、グラーツはクリームケーキのように外壁のおいしそうな街…絶景の写真を配した旅エッセイよりも、すっと街の息吹が身体に染み込む感覚が良い。
2018/08/17
マリリン
本や書店、語り場等を通して紡がれる旅のエッセイが心地よい。数ページという短い記録だが、フランクフルトで助けた鳥が手の中で温もりを得て飛び立った話、喧嘩言語文化の...という視点が面白い。言語・音楽・美術・建築・文化・食等、仕事がらみの旅だが訪れた地をゆったり味わい、歩く楽しさが伝わってくる。地名は殆ど記憶にあり懐かしいが(授業中よく地図を眺めていた)記憶の中では国境線が曖昧。ボルドーⅢの河鳥の形をした青いアコーディオンや居住地が減ると樹木が増える話等も印象的。物事動物人間の界絡が溶ける...独特な言葉だ。
2023/05/10
香菜子(かなこ・Kanako)
溶ける街 透ける路。多和田葉子先生の著書。多和田葉子先生による旅行記エッセイ。多和田葉子先生のように多様な文化や新しいものを柔軟に受け入れて学ぶ謙虚な姿勢を見習いたいと思います。
2018/12/28
chanvesa
多和田さんが「ドイツで一番好きな町はどこ」と言う質問に用意している答えの町「デュイスブルグ」(70頁~)は工業廃墟という。多和田さんは廃墟マニアなのだろうか。工場の風景には、近代のもたらした人々を苦しめる一面をクローズアップさせる恐ろしさもあり、その研ぎ澄まされた美しさもあり、私は複雑な印象を持つ。しかしその亡きがらに多和田さんが関心を持たれるということが、とても興味深い。「ハノーファー」(158頁~)に出てくる『マックスとモーリッツ』のお話は、エドワード・ゴーリーのよう。
2018/07/15
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