男の一生 下
男の一生 下 / 感想・レビュー
優希
姉川の戦いから将右衛門の死、その子孫までが描かれます。秀吉の性格が変化していくのは戦国の頂点に達したからでしょう。どのような状況にあっても実直に仕える将右衛門に対して言うことは何もありません。
2021/08/29
活字の旅遊人
下巻三章目で18年飛ぶ。ここで『決戦の時』との重複は終わる。この後は『反逆』、『宿敵』と重なってくるのだが、主人公前野将右衛門の弱さ、虚しさが良く伝わってくる。ここからは当然、キリスト教も話題になる。利休はキリシタンではないが、近い存在のようだ。最終章で「語り手たち」として『武功夜話』のことを教えてくれる。史料としての評価はともかく、この時代の一つの見方として遠藤周作に強い印象を与えたことが分かる。そしてお拾いさまの出生ミステリーは謎のまま残された。重きも軽きも織り交ぜた、遠藤周作らしい作品だと思った。
2021/04/20
キムチ
下巻に入ると様相は一転。秀吉の性格の変容が、前野一族に暗雲をもたらして行く。茶々の産んだ子、秀吉のお世継ぎ問題が秀次に悲劇を呼ぶ。彼に仕えた将右衛門は暗躍の陰謀の詰め腹を切らされ一族は雲散霧消の身に。あとがきに遠藤氏の想いが綴られるが、何とも味わいのある語り口。木曽川も「ゆく川の流れは絶えずして元の水にあらず」だと。人の心は移ろい、権勢もさなり。細川と縁戚になった前野家が庭石に「切支丹に非ず」と刻んでいるが、帰依したのだろう。人の心が信じられぬかの乱世にあって、将右衛門がすがった祈りが解るような。
2017/01/07
スー
期待に満ちていた上巻とは違い下巻は戦場での命のやり取りとはまた違う緊張感・身の処し方を求められる新たな時代の到来と残酷さを増し信長に近づいていく秀吉に戸惑い暗澹とした気持ちになっていく長康と小六。家を長いこと開け仕事に打ち込んで、気づいてみれば妻に先立たれ兄と慕った小六を失い尊敬していた利休と秀長も亡くなり、自慢だった上司は変貌し忠義を尽くしたのに、こんな結末とは長生きはするもんじゃないとつくづく思いました。題名は男の一生ですが登場する女性陣もとても印象的で、愛されなかった濃、好きだった兄を殺した兄信長を
2018/12/08
rokubrain
彼の変わらぬ信条のよりどころは何か?木曽川。木曽川こそが、自分がかつて小六たちと活躍した舞台であり、烈しい時代の移り変わりのなかで翻弄されながらも、いつもそこに還っていく場所だ。全ての人生をのみこんで、いつも何事もなかったかのようにゆたかに流れている。また、切支丹禁制の時代、水面下でゼウスを信仰する民たちが脈々と息づいていたのが、あの「女の一生」の長崎だけでなく、ここ信長、秀吉たち戦国の為政者たちゆかりの地でも見つけることができるのは、決して偶然ではなかったと合点がいったのは個人的に収穫だった。
2016/06/04
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